【不動産ニュース】地域活性化に向けた不動産の利活用-国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』へ寄稿|ニッセイ基礎研究所
2019年7月27日 10時30分
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■要旨 近年、SDGs(持続可能な開発目標)が国際社会全体の目標として示され、総合的な課題解決が重要とされ、また、投資家が投資先企業にESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求める動きが世界的に拡大している。他方、我が国では、人口減少・少子高齢化、インフラ老朽化などが喫緊の課題となっており、これらの社会・地域課題の解決には、SDGs やESG投資の観点なども踏まえ、官だけでなく、産業界など多様な組織やステークホルダーによる取組が必要不可欠となっている。 国土交通省土地・建設産業局は、このような背景を踏まえて作成した『企業による不動産の利活用ハンドブック-地方から始まる新しい活用のかたち-』を5月24日に公表した。同ハンドブックは、地方における不動産活用の促進の観点から、特に企業が所有する不動産(CRE:Corporate Real Estate)の利活用によって、地域貢献・地域活性化に寄与した事例など(13件)を集めたものであり、様々な地域課題解決に向け、産業界など多様な組織、ステークホルダーによる不動産利活用の取組を促進することを目的としている。様々な組織による活用の場である不動産、とりわけCREの利活用による社会的価値の創出に着目した画期的な事例集である。 ところで、筆者は、同ハンドブックの巻頭に「寄稿 ハンドブック発刊によせて/地域活性化に向けた不動産の利活用」と題した論考を寄稿する、大変光栄な機会を得、CREの有効な利活用を促進するためのポイントや留意点などを解説した。そこで本稿では、同ハンドブックの構成、国土交通省のこれまでのCREへの主な取組と筆者の関わりについて簡単に触れた上で、筆者が執筆した寄稿文について概要を紹介したい。 ■目次 1――はじめに~国交省が『企業による不動産の利活用ハンドブック』を作成・公表 2――国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』の構成 3――国土交通省のこれまでのCREへの主な取り組みと筆者の関わり 4――筆者によるハンドブック寄稿文「地域活性化に向けた不動産の利活用」の概要   1|地方圏での不動産市場の課題   2|CSRやESGの推進に向けて求められる産学官民連携の推進   3|地方における企業の不動産戦略の在り方~「三種の神器」の導入を! 5――むすび 1――はじめに~国交省が『企業による不動産の利活用ハンドブック』を作成・公表 近年、SDGs(持続可能な開発目標)が国際社会全体の目標として示され、総合的な課題解決が重要とされ、また、投資家が投資先企業にESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮を求める動きが世界的に拡大している。他方、我が国では、人口減少・少子高齢化、インフラ老朽化などが喫緊の課題となっており、これらの社会・地域課題の解決には、SDGs やESG投資の観点なども踏まえ、官だけでなく、産業界など多様な組織やステークホルダーによる取組が必要不可欠となっている。 国土交通省土地・建設産業局は、このような背景を踏まえて作成した『企業による不動産の利活用ハンドブック-地方から始まる新しい活用のかたち-』1を5月24日に公表した。同ハンドブックは、地方における不動産活用の促進の観点から、特に企業が所有する不動産(CRE:Corporate Real Estate)の利活用によって、地域貢献・地域活性化に寄与した事例など(13件)を集めたものであり、様々な地域課題解決に向け、産業界など多様な組織、ステークホルダーによる不動産利活用の取組を促進することを目的としている。様々な組織による活用の場である不動産、とりわけCREの利活用による社会的価値の創出に着目した画期的な事例集である。 ところで、筆者は、同ハンドブックの巻頭に「寄稿 ハンドブック発刊によせて/地域活性化に向けた不動産の利活用」2と題した論考を寄稿する、大変光栄な機会を得、CREの有効な利活用を促進するためのポイントや留意点などを解説した。そこで本稿では、同ハンドブックの構成、国土交通省のこれまでのCREへの主な取組と筆者の関わりについて簡単に触れた上で、筆者が執筆した寄稿文について概要を紹介したい。 1 同ハンドブックは、国土交通省のウェブサイトにて全文が公開されている。以下のURLを参照されたい。 https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo05_hh_000173.html 2 注記1のハンドブックのURLに掲載されている添付資料のうち、「企業による不動産の利活用ハンドブック[1](PDF形式)」を参照されたい。 2――国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』の構成 国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』は、筆者による寄稿文(後述)と、企業・団体による不動産活用事例集で構成される(図表1)。事例集は、さらに「地域貢献・地域活性化に寄与する活用事例」(5件)、「従業員の福利厚生を目的とした利活用事例」(4件)、「防災・BCP(事業継続)を目的とした利活用事例」(4件)の3つのパートに分かれる。 3つのパート別に取り上げられた事例は、以下の通りである。13件の事例の詳細については、ここでは紹介しないが、いずれの事例も、社会性の高い取組であり、事例集を是非実際に御覧頂き、参考にして頂きたい3。 3 事例集のパートについては、注記1のハンドブックのURLに掲載されている添付資料のうち、「企業による不動産の利活用ハンドブック[2](PDF形式)」を参照されたい。 1. 地域貢献・地域活性化に寄与する活用事例 ◆市民のサードプレイスを創る/アルファコート株式会社(北海道恵庭市) ◆まちに開かれ愛される場をめざして/𠮷原住宅有限会社(福岡県福岡市) ◆地域に根ざした賑わい創出(シェアハウスへのリノベーション)/株式会社アイワ不動産(静岡県静岡市) ◆官民連携による復興公営住宅の整備/日鉄興和不動産株式会社(岩手県釜石市) ◆「ノキサキ貢献」で一石三鳥/西日本電信電話株式会社(大阪府大阪市) 2. 従業員の福利厚生を目的とした利活用事例 ◆地場インフラ企業による新社屋建設~新しい価値創造へ向け社員のコミュニケーション活性化を重視/北海道ガス株式会社(北海道札幌市) ◆本社リノベーションに込められたメッセージ/株式会社トライアルカンパニー(福岡県福岡市) ◆商業施設で働くママ達が安心して長く働ける環境に向けて/静鉄プロパティマネジメント株式会社(静岡県静岡市) ◆脱・3Kを掲げ新工場建設(社員が誇れるオシャレな職場へ)/株式会社大森(宮城県気仙沼市) 3. 防災・BCP(事業継続)を目的とした利活用事例 ◆地域密着企業が社会に「安全」を還元する~地場企業が提供する防犯・防災の拠点「安全の駅」/植村建設株式会社(北海道赤平市) ◆次世代エネルギーを活用したまちづくり(再生可能エネルギーと防災対応)/鹿児島県薩摩川内市×九電みらいエナジー株式会社 ◆地元自治体との連携により地域防災に貢献/学校法人東北学院(宮城県仙台市) ◆災害対策拠点としての機能も備えた独身寮の整備/常石造船株式会社(広島県福山市) 3――国土交通省のこれまでのCREへの主な取り組みと筆者の関わり ここで国土交通省のこれまでのCREへの主な取組について簡単に振り返るとともに、それへの筆者の関わりについて言及しておきたい。 国土交通省では、CREという言葉が産業界に未だ普及していなかった、2006年に「企業不動産の合理的な所有・利用に関する研究会(CRE研究会)」をいち早く立ち上げ、CREの現状・課題や今後のあるべきCRE戦略について先駆的な検討を行った4。同研究会の事務局業務は弊社が受託し、筆者がプロジェクトマネージャーを担当した。 同省は、続いて企業がCRE戦略を実践する際の実務的な指針および参考となる資料集として『CRE戦略を実践するためのガイドライン・手引き(初版)』を2008年に公表し、その後2009年および2010年に矢継ぎ早に改訂を行った5。筆者は、CRE研究会ワーキンググループ委員として同ガイドライン・手引きの作成に参画し、「事例編」の執筆を担当した(事務局は一般財団法人日本不動産研究所が担当)。 その後、同省は、企業不動産のオフバランスなど、直接的な企業価値向上に結びつく取組だけでなく、人材確保や企業イメージの向上、環境配慮などを通じて企業価値向上を目指す企業不動産の活用事例を共有するなど、地方における企業不動産の活用に役立つ情報を提供するセミナーとして、「企業不動産の活用のためのセミナー」を2018年10月・11月に札幌、福岡、静岡、仙台にて主催・開催した(事務局は(一財)日本不動産研究所が担当)6。自社所有の不動産の活用を考えている方々(経営者、役員、不動産管理・運営の責任者など)を聴講対象とする同セミナーは、地域の幅広い業種の大企業や中堅・中小企業などの聴講者を集め盛況であった。筆者は、前述の「CRE研究会」の立上げや『CRE戦略実践のためのガイドライン』の作成に参画し、またCRE戦略の重要性をいち早く主張し、これまで調査研究活動を通じて微力ながらその普及啓発に努めてきたことが評価され、「これからの世の中に求められるCREとは?」と題した単独講演を行う、大変光栄な機会を頂いた。 4 CRE研究会の検討内容については、以下のURLを参照されたい。 http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/03/030427_.html 5 初版および改訂版は、以下のURLを参照されたい。2010年改訂版にて名称が『CRE戦略実践のためのガイドライン』に統一された。最新の書籍版は、国土交通省 合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会)編著『CRE戦略実践のために─2010改訂版─』住宅新報社2010年。 http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000113.html 6 セミナーの開催案内については、以下のURLを参照されたい。 http://www.reinet.or.jp/?p=21184 4――筆者によるハンドブック寄稿文「地域活性化に向けた不動産の利活用」の概要 以下では、筆者が国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』の発刊に寄せて寄稿した、34ページに及ぶ論考「地域活性化に向けた不動産の利活用」の概要・ポイントを目次に沿って紹介したい7。寄稿文の目次は、以下の通りである。 1.地方圏での不動産市場の課題 1|社会課題・地域課題解決に向けて期待が高まるESGへの取組 2|社会的ミッション起点のCSR経営・ESG経営の重要性 3|企業不動産はCSR経営・ESG経営を実践するためのプラットフォームに 4|地域活性化に向けた不動産の利活用は中堅・中小企業にとっても重要 2.CSRやESGの推進に向けて求められる産学官民連携の推進 1|産学官民連携が必要となる背景 2|ESGやSDGsの推進に向けた街づくりの在り方~サステナブル・クリエイティブシティの構築 3.地方における企業の不動産戦略の在り方~「三種の神器」の導入を! 1|企業不動産戦略とは? 2|企業不動産戦略実践のための 「三種の神器 」 3|企業不動産マネジメントの一元化 4|先進的・創造的なワークプレイスとワークスタイルの重視 5|アウトソーシングの戦略的活用 4.むすび 7 ハンドブック全体の概要版については、注記1のハンドブックのURLに掲載されている添付資料のうち、「企業による不動産の利活用ハンドブック概要版(PDF形式)」を参照されたい。 1|地方圏での不動産市場の課題 (1) 社会課題・地域課題解決に向けて期待が高まるESG・SDGsへの取組 国連の責任投資原則(PRI)に署名する機関投資家が増加するに伴い、持続可能な社会の構築と企業の中長期的な成長に向けて、投資家が投資先企業に対してESGへの配慮を求める動きが世界的に拡大している。また、国連のSDGsが国際社会全体の開発目標として共有され、経済・社会・環境をめぐる広範な課題に総合的に取り組むことが重要とされている。 一方、我が国では、人口減少・少子高齢化、環境・エネルギー(地球温暖化、廃プラスチックなど)、防災減災・インフラ老朽化対策、交通・モビリティ、健康・医療・福祉、情報セキュリティ、地域・都市の再生・活性化などが喫緊の課題となっている。 多様で複合化した我が国の課題とESGおよびSDGsは、重なり合う部分が非常に多いため、我が国の社会課題・地域課題を解決するためにも、企業を中心に産学官の連携によって、ESGおよびSDGsへの取組を強力に推進することが求められる。 (2) 社会的ミッション起点のCSR経営・ESG経営の重要性 企業の存在意義や社会的責任(CSR)は、あらゆる事業活動を通じた社会問題解決による社会変革や社会的価値の創出にこそあるべきであり、経済的リターンありきではなく、社会的ミッションを起点とする発想が求められる。企業は社会的価値の創出と引き換えに経済的リターンを獲得できるのであり、社会的価値の創出が経済的リターンに対する「上位概念」である(図表2)。 このような「社会的ミッション起点のCSR 経営」の実践には、従業員、顧客、取引先、株主、債権者、地域社会、行政など企業を取り巻く多様なステークホルダーとの「高い志の共有」が不可欠だ。CSRの実践では、適切な「ガバナンス(G)」の下で、企業活動の一挙手一投足を「環境(E)や社会(S)への配慮」という「フィルター」にかけることが不可欠であるため、「CSR経営」は「ESG経営」と言い換えることもできる。 企業が受け取るリターンには、経済的リターンに加え、非金銭的なモチベーション(高い志を達成したことによる満足感ややりがい、社会からの企業に対する評価向上)があると考えられる(図表2)。 (3) 企業不動産はCSR経営・ESG経営を実践するためのプラットフォームに 企業が利活用する不動産は、「外部性」を持つため、とりわけ社会性を配慮した利活用が欠かせない。企業不動産(CRE)戦略では、各種のワークプレイスやファシリティが立地する地域社会や都市との共生を図り、良き企業市民として地域・都市に貢献する視点が重要だ。 企業は、不動産の利活用が地域社会の自然環境や景観に及ぼす「外部不経済」を最小化・ゼロ化する一方で、構築した拠点を起点に事業活動を通じて地域社会に生み出す、地域活性化や社会課題解決など「外部経済効果」を最大限に引き出すことに取り組むことが求められる。すなわち、企業不動産は「社会的ミッション起点のCSR /ESG経営を実践するためのプラットフォーム」の役割を果たすべきだ。 (4) 社会性に配慮した不動産の利活用は中堅・中小企業にとっても重要 地域活性化に向けた不動産の利活用は、大企業だけでなく、中堅・中小企業にとっても極めて重要な課題である。CSR/ESG経営の実践は、非上場企業や中堅・中小企業にも求められており、良き企業市民として持続可能な社会の構築へ貢献していかなければならない。 企業の土地取得額に占める中堅・中小企業の比率は、直近の2017年度では50%を占める(図表4)。このことから、企業不動産に関わる適切な経営戦略(CRE戦略)を通じた不動産の有効活用・企業価値の向上が、大企業に加え、中堅・中小企業にとっても極めて重要な課題として問われている。 欧米の先進的なグローバル企業は、既にCRE戦略を実践している一方、我が国では、大企業でも組織的な取り組みが遅れており、さらに中堅・中小企業では認知度自体がまだ低い。 大企業とともに中小企業にとっても、CSR/ESG経営に舵を切ることにより、購入した所有地の地域活性化・社会課題解決に向けた利活用の余地は大きい。 2|CSRやESGの推進に向けて求められる産学官民連携の推進 (1) 産学官民連携が必要となる背景 人口減少や税収減により、自治体のみで地域課題や街づくりに対応するのは、もはや困難になってきており、産業界の知見・人材・資金、大学・研究機関の知見・人材を活用することが不可欠になってきている。加えて、地域住民やNPOなどの協力・参画も、今後ますます必要となろう。 企業がCSR/ESG経営を実践するためには、前述の通り、多様なステークホルダーからの応援・協力が欠かせない。 従って、CSRやESGの実践による社会課題・地域課題の解決や街づくりには、企業を中心に産学官民が連携し一致結束して取り組むことが求められる。 (2) ESGやSDGsの推進に向けた街づくりの在り方~サステナブル・クリエイティブシティの構築 企業不動産など各種ファシリティの集合体である街づくりにも、外部性および産学官民連携の視点が必要だ。街づくりにおいても、企業不動産単体と同様に、まずは不動産の利活用が地域・都市の自然環境や景観に及ぼす外部不経済を最小化することが不可欠だ。 一方、街づくりの外部経済効果は、「多様で創造的な人々が世界中から集い、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、自動運転など最先端テクノロジーをフル活用したイノベーションが継続的に創出され、多様な社会課題が解決されることによって、結果として地域・都市の中長期の持続可能性(サステナビリティ)が向上することである」と考えられる。 多種多様な背景を持った優秀な人材を地域・都市に引き寄せるためには、「職住遊の近接・一体化」および「オープンイノベーション推進のための多様な場」の視点から、複合用途(ミクストユース)を備えた街づくりを進め、地域・都市を「クリエイティブシティ(創造都市)」へ変貌させる必要がある。一方、地域・都市の多様な社会課題を解決するためには、ミクストユース開発の街づくりにより整備・誘致された産学官民の多様な機関・組織の力を結集して、地域・都市を持続可能(サステナブル)な「スマートシティ」へ変貌させることが求められる。 従って、外部経済効果を最大限に引き出す街づくりでは、クリエイティブシティとスマートシティの要素を併せ持つべきであり、筆者は、そのような地域・都市を「サステナブル・クリエイティブシティ」と呼んでいる(図表5)。 サステナブル・クリエイティブシティは、環境(E)・社会(S)への配慮を含む、多様で横断的な社会課題を解決するための強力なプラットフォームとなるため、地域・都市のサステナブル・クリエイティブシティへの進化は、ESGやSDGsを推進するための極めて有力な手段の1つとなる。ただし、地域・都市全体がデータに基づいて透明性の高い管理や適切な情報開示がなされ、適切な「地域・都市ガバナンス(G)」が確保されていることが、その前提条件となる。 (3) サステナブル・クリエイティブシティにおける最先端のテクノロジー実装の重要性 サステナブル・クリエイティブシティにおいて、複合化した多様な社会課題を解決するための極めて重要なポイントは、「地域・都市への最先端テクノロジーの実装」であることをここで強調しておきたい。 建物やインフラなど地域・都市のあらゆる構成要素・機能にIoTデバイスが搭載され、地域・都市全体が通信ネットワークでつながる「コネクテッドシティ(つながる街)」とすることや、産学官民の多様な主体間で、ビッグデータを共有・共用できるしくみを構築しておくことなどが、サステナブル・クリエイティブシティ構築の必要条件となる。 地域・都市というフィジカル空間(実世界)で生み出されるビッグデータをサイバー空間(仮想空間)でAIにより解析し、地域・都市で活動する産学官の多様な主体が、このAIによる解析結果を地域・都市のあらゆる構成要素・機能・サービスの管理・運営の効率化・高度化に活かすことができれば、地域・都市全体の最適化が図られ、多様な社会課題は解決に向かうだろう。 最先端テクノロジーを活用して社会課題を解決する、第4 次産業革命やSociety5.0の本質は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合・連動するCPS(Cyber Physical Systems)にあるが、サステナブル・クリエイティブシティは、CPSを先行的・試行的に応用・実践する場である、と言えよう。 このため、従来はサイバー空間でのビジネスをメインとしてきた巨大ITプラットフォーマーが、街づくりに積極的に乗り出してくることがあっても、まったく不思議ではない。実際、米アルファベット(グーグルを傘下に持つ持株会社)は、カナダ・トロント市でカナダ政府や市が推進するスマートシティ開発プロジェクトに子会社サイドウォーク・ラボを通じて参画している。 米国のIT大手の本社は、シリコンバレーやシアトルなどの広大な敷地に構築されることが多いため、本社施設全体を「キャンパス」と呼ぶことが多い。このようなIT大手の巨大な本社施設は、都市の非常に重要な要素を構成しており、ハイテクを駆使した「先端型企業城下町」を形成している、とも言える。寄稿文にて先進事例として取り上げた、アップルがカリフォルニア州クパチーノ市の約71万㎡にも及ぶ広大な敷地に構築した新本社屋Apple Parkは、まさに巨大な社屋の中にひとつの街が再現されたかのようだ。 3|地方における企業の不動産戦略の在り方~「三種の神器」の導入を! (1) 企業不動産(CRE)戦略とは? 企業が事業継続のために使う不動産を重要な経営資源の1つに位置付け、その活用、管理、取引(取得、売却、賃貸借)に際し、CSRを踏まえた上で、企業価値最大化の視点から最適な選択を行う経営戦略を「CRE(企業不動産)戦略」と呼ぶ。 CRE戦略は、経理・財務、人事、IT などとともに、社内に専門的・共通的な役務を提供する「シェアードサービス型」戦略の一翼を担う(図表6)。シェアードサービスは企業経営に不可欠だが、事業戦略と整合性がとられて初めて機能するため、CRE戦略には、経営層や事業部門、従業員など「社内顧客」に不動産サービスを提供する「社内ベンダー」、すなわち社内顧客の「ビジネスパートナー」であるとの発想が必要となる。 シェアードサービス型戦略としてのCRE戦略の主要な役割として、(1)日々の事業活動における不動産ニーズに対するソリューションの提示、(2)中期的な経営戦略の遂行をサポートする不動産マネジメントの立案・提案・実行(経営層の意思決定・戦略遂行に資するという意味で「マネジメント・レイヤーのCRE戦略」と呼ぶ)、(3)社内顧客のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐ「リエゾン(橋渡し)機能」(外部ベンダーを使いこなす「ベンダーマネジメント機能」と言い換えてもよい)の3つが挙げられる。このうち、(2)がCRE戦略のコア機能だ。(2)に専念するために、できるだけ(1)を外部ベンダーに委託することが不可欠であり、(3)も重要な業務となる。 企業不動産が、社会的ミッション起点のCSR 経営(ESG経営)を実践するためのプラットフォームの役割を果たし、地域・都市に貢献していくためには、企業が適切なマネジメント体制の下で組織的にCRE戦略に取り組むことが前提条件となる。 (2) CRE戦略実践のための 「三種の神器 」 IBM、アップル、インテル、オラクル、グーグル、シスコシステムズ、ヒューレット・パッカード(HP)、フェイスブック、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、マイクロソフトなどの米国大企業、英国のグラクソ・スミスクライン、フィンランドのノキアなど、先進的なグローバル企業のCRE戦略には、次の3つの共通点が見られ、筆者は、これらをCRE戦略を実践するための「三種の神器」と呼んでいる。この三種の神器は、グローバル企業に限らず、あらゆる企業がCRE戦略に取り組む際の重要なポイントになると考えられる。いずれの要素も、経営トップの強いコミットメントの下で、推進されなければならない。 1)CREマネジメントの一元化 CRE戦略を担う専門部署の設置による意思決定の一元化とIT活用による不動産情報の一元管理により、「CREマネジメントの一元化」を図っていること。ファシリティの運営維持管理コスト、利用度、従業員満足度などの一元管理された不動産情報は、世界の拠点間のベンチマークに活かされている。また、サステナブル・クリエイティブシティの構築において、最先端テクノロジーの実装が極めて重要である、という点については前述した通りであるが、オフィスなど個々のCRE単位での不動産データの収集・分析にも、IoTデバイス、AI、クラウドコンピューティングなど「不動産テック」8を利活用する余地が非常に大きい、と考えられる。例えば、オフィスでの執務エリアのデスクや会議室、カフェテリアなどの利用状況を把握するのに、赤外線センサー(人感センサー)を設置すれば、これまで目視により手間のかかっていた利用状況調査も、簡単かつ精緻にリアルタイムで行えるようになる。さらに、オフィスでのコミュニケーション状況など従業員の行動データを赤外線センサーや加速度センサーで取得し、このビッグデータをAIで分析すれば、定量データに基づいて、業務の生産性向上に資するオフィス環境の整備を検討できるようになるだろう。 8 「不動産とテクノロジーの融合」を意味する。「プロップテック(Prop Tech)」とも言い、ここ数年で注目されるようになってきた。その活用事例として脚光を浴びているのは、これまでのところ、不動産流通に関わる価格査定、マッチング、チャットなどBtoC分野の業務効率化が中心だが、本稿で述べた通り、事業用不動産(CRE)への活用余地も非常に大きい。 2)先進的・創造的なワークプレイスとワークスタイルの重視 CRE戦略の重点を単なるハードの不動産管理にとどめず、「先進的・創造的なワークプレイスやワークスタイル」を活用したHRM(人的資源管理:Human Resource Management)に移行させていること。ここでは、従業員の創造性を企業競争力の源泉と認識し、それを最大限に引き出し、革新的なイノベーション創出につなげていくための創造的なオフィス、すなわち「クリエイティブオフィス」の構築・運用が極めて重要となる。筆者が提唱する、クリエイティブオフィスの「基本的な設計コンセプト(基本モデル)」を図表7に示す。 3)外部ベンダーの戦略的活用 「アウトソーシングの戦略的活用」により、戦略的業務への社内の人的資源の集中を図っていること。施設運営など日々のサービス提供業務は、外部ベンダーに包括的に委託する一方、CRE専門部署では社内スタッフの少数精鋭化を進め、戦略の策定・意思決定やベンダーマネジメントに特化する傾向を強めている。社内スタッフと外部ベンダーが異なる組織にいながら実質的には一つのチームを形成し、社内スタッフはこのチームをフル活用することで、戦略的業務に注力することができる。 前述の通り、CRE戦略は、大企業だけでなく、地方における中堅・中小企業にとっても重要になってきている。CRE戦略の重要性が高まる中、我が国でもCRE 戦略という言葉は産業界に広まりつつあるが、適切なマネジメント体制の下で組織的に取り組む企業はまだ少ない。 企業は、CRE戦略に取り組むための準備を早急に行うべきであり、この三種の神器の整備から始めることをお奨めしたい(三種の神器の3つの要素に関わる詳細な説明については、是非、寄稿文を参照されたい)。 5――むすび 本稿では、国土交通省が5月に公表した『企業による不動産の利活用ハンドブック』について、筆者の寄稿文を中心に説明してきたが、そもそもこれには、ESGやSDGsの推進に向けた事業活動を通じた不動産の利活用によって、地域活性化や社会課題解決など社会的価値を創出することを促進したいという思いがある。 また、国土交通省土地・建設産業局では、同ハンドブックの作成・公表に加え、不動産投資におけるESGやSDGsのあり方及び取り組みの推進のための検討を行うことを目的として、「ESG不動産投資のあり方検討会」を設置し、2019年2月~6月に4回の検討会を開催し、7月に中間とりまとめを行った9。社会的ミッションを企業理念として掲げる志の高い産業界の方々には、業種を問わず幅広く、ハンドブック全体と併せて同検討会の中間とりまとめを是非実際に御覧頂きたい。 今後、多くの日本企業が国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』および『ESG不動産投資のあり方検討会 中間とりまとめ』を参考にして、CRE戦略実践のための三種の神器を整備しつつ、不動産を起点にESGやSDGsの推進による社会課題・地域課題の解決に踏み出すことを期待したい。 9 ESG不動産投資のあり方検討会の内容および中間とりまとめについては、以下のURLを参照されたい。http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk5_000198.html https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62036?site=nli