【特別コラム】神戸市『タワマン規制』と日経『限界都市』の深いレゾナンス(共鳴)|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年8月7日 07時30分
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 日本経済新聞社の編集局が調査報道チームを立ち上げて、「限界都市」というシリーズで記事を連載し始めたのは、2018年3月20日のことでした。  初回のタイトルは、「再開発の5割にタワマン、住宅供給過剰に懸念」。 次のような記事が続きました──。日本の都市整備で大きな役割を担ってきた、官民の市街地再開発のバランスが崩れてきた。日本経済新聞が全国の事業を調べたところ、超高層住宅(タワーマンション)を備える割合が1990年代前半の15%から、2016~20年は5割近くに増えることが分かった──。 ■■■2019年2月、書籍『限界都市 あなたの街が蝕まれる』の発行  この「限界都市シリーズ」は大幅に加筆されて、2019年2月に書籍として発行されました。日経プレミアシリーズ『限界都市 あなたの街が蝕まれる』(日本経済新聞社編)です。 【同書のキャッチコピー】  再開発で次々と建設されるタワマンやオフィスビル。一方で、取り残される老朽団地や空き家・空き地の増加、進まぬコンパクトシティー化。誰も全体を把握できないまま日本列島で同時進行する「合成の誤謬」に、データ分析と現地取材でメスを入れる──。 【同書の目次】  第1章 タワマン乱立、不都合な未来像   ① 「住みたい街」武蔵小杉の憂鬱   ② 児童があふれる小学校    ③ 再開発が招く住宅供給過剰   ④ 開発ありき、かすむ公共性──それぞれの現場から   ⑤ 都市開発の歩み──タワマンが乱立する必然  第2章 マンション危機、押し寄せる「老い」の波   ① マンション大規模修繕の死角   ② 管理組合にむらがる悪質業者 ・・・     第3章 虚構のコンパクトシティー   ① 日経調査から見えてきた矛盾   ② 現場で見えた「優等生」の苦悩 ・・・  第4章 脱・限界都市の挑戦   ① 急成長を避けた街・ユーカリが丘   ② 団地再生の良案 ・・・ ■■■2016年3月、神戸市中央区が『タワマン実態調査報告書』を公表  神戸市中央区は、区内に立つ「20階以上のタワーマンション19棟」の居住者を対象にしたアンケート調査を実施。その結果を報告書にまとめました(19棟のうち、2棟は調査に非回答)。  居住者がタワーマンションを選んだ理由は、1位「交通の利便性」(約23%)、2位「眺望」(約18%)、3位「セキュリティ」(約16%)の順でした。  この報告書は、主な論点を「防災」、「子育て」、「高齢者」としています。すなわち、日経が2018年3月から連載した、「限界都市」的な視点はまだ持ち合わせていません。  報告書のURL http://urx2.nu/oGwf ■■■2018年12月、報告書『神戸市におけるタワマンの課題と対応策』を公表  神戸市が委託した有識者10名で構成される、「タワーマンションのあり方に関する研究会」が、報告書『神戸市におけるタワマンの課題と対応策』をまとめました。タワマンの課題として、A・B・Cの3項目を指摘しています。 【A持続可能性の確保】  ① 修繕積立金不足  ② 将来の保有コスト負担  ③ 災害への対応  【B良好なコミュニティの形成】   ① 区分所有者の属性の多様化による合意形成の困難化  ② 周辺コミュニティとの関係の希薄化  ③ 高層階住民の外出行動の減少 【Cまちづくりとの調和】   ① 都市部への人口集中の弊害  ② 小中学校の過密化などインフラ不足による問題が発生  このA・B・Cの各項目には、日経が2018年3月から連載した「限界都市」的な視点と相通じる、強い問題意識が感じられます。  報告書のURL http://urx2.nu/Zzp0 ■■■2019年7月、神戸市議会『タワーマンション規制条例案を可決』  神戸市議会は7月1日、神戸市中心部の繁華街「三宮」や山陽新幹線の新神戸駅周辺で、タワーマンションなど大規模住宅の建築を規制する規制条例案を賛成多数で可決しました。  敷地面積が1000平方メートル以上の建物では、住宅用途の容積率を400%以内に制限するため、ほとんどの高層マンションが建設できなくなります。従来は用途を問わず容積率が最大900%でした。  大規模なマンション開発で都心の住宅地化が進むのを防ぎ、ビジネス・商業・観光などの機能を活性化させるのが狙いで、2020年7月1日に施行されます──。  この「タワーマンション規制条例」の内容は、2019年2月に発行された、日本経済新聞社編『限界都市・あなたの街が蝕まれる』の問題意識と、深くレゾナンス(共鳴)しています。 【※注1】  「タワーマンション規制条例」という名称は俗称です。正式には「神戸市民の住環境をまもりそだてる条例」と呼ばれています。 【※注2】  「神戸市民の住環境をまもりそだてる条例」を知るためのURL http://urx2.nu/XUni    このURLをクリックすると「特別用途地区──都心機能誘導地区」というタイトルの資料があります。その中に、「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例(抜粋)」が掲載されています。 細野 透(ほその・とおる)建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。 東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。