【不動産ニュース】インターネット通販市場の成長と物流施設利用の方向性|ニッセイ基礎研究所
2019年8月4日 10時00分
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■目次 1――はじめに 2――インターネット通販市場の成長可能性   1|年代別にみたネットショッピングの利用状況   2|ラストワンマイルにおける人手不足   3|シェアリングエコノミーの拡大 3――インターネット通販の成長分野と物流施設利用   1|成長余地が大きい分野   2|ネットスーパーの配送センターの設置ニーズが高い地域 4――市場成長分野に呼応した物流施設ニーズの変化   1|求められる施設規模・設備   2|求められる立地条件 5――おわりに ※本稿は2018年7月20日・30日発行「不動産投資レポート」を加筆・修正したものである。 1――はじめに 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によれば、2018年の企業と消費者間の電子商取引市場(EC市場)規模は、約18兆円に達した(図表1)。スマートフォンの普及により、場所・時間を問わず商品の注文が可能になったことや、インターネット通販で扱われる商品の裾野が急速に広がったこと等により、EC市場は、順調に拡大している。 EC市場規模の内訳をみると、物販系分野の占める割合(52%)が最も大きく、次いで、サービス系分野1(37%)、デジタル系分野2(11%)となっている(図表2)。 市場規模の拡大とともにEC化率3も上昇している(図表3)。物販系分野の平均EC化率は、6.2%に留まっているが、商品別にみると、既にEC化率が10%以上の商品(生活家電、衣類、雑貨、等)もみられる(図表4)。 いまや即日・当日配送が常識となっている物販系EC(インターネット通販)の貨物を扱う物流施設(配送センター等)では、大量の商品を迅速に入出荷することが求められている。そのため、不動産投資家(REIT等)が投資対象とする高機能な大規模物流施設が利用されることが多い。世界主要都市で事業展開している大手不動産会社のJLLの調査によれば、2010年から2014年にかけて首都圏で新規供給された先進的物流施設では、インターネット通販のテナントが約2割を占めた(延床面積ベース)。物流施設投資の見通しを立てるにあたり、インターネット通販の現状を把握することは必須といえる。 そこで、本稿では、インターネット通販市場の成長が物流施設利用に与える影響について考察する。まず、インターネット通販市場の成長可能性、等について概観する。そして、通販市場の状況を踏まえて、物流施設利用の方向性について考えたい。 1 チケット販売、金融サービス、旅行サービス、等。 2 電子書籍、有料音楽・動画配信、オンラインゲーム、等。 3 すべての商取引額(商取引市場規模)に対する電子商取引額の割合。 2――インターネット通販市場の成長可能性 本章では、インターネット市場の成長可能性を、(1)年代別にみたネットショッピングの利用状況(2)ラストワンマイルにおける人手不足、(3)シェアリングエコノミーの拡大の3つの観点で考察する。 1|年代別にみたネットショッピングの利用状況 総務省「平成30年 家計消費状況調査」によれば、2018年のネットショッピングの利用率は39%となり、「家計消費状況調査」が開始した2002年(5%)の約8倍まで拡大した。年代別にみたネットショッピングの利用率は、「39歳以下」の年代(62%)が最も高く、年齢が上がるにつれて低下する傾向にある(図表5)。 一方、ネットショッピング支出額は、「50~59歳」の年代(年間41万円)が最も多く、次いで「60~69歳」(年間39万円)、の世代が多い。最も支出額が少ないのは、「39歳以下」の年代(年間(年間34万円)である。(図表6)。ネットショッピングを利用している層に限定してみると、ミドル・シニア層(40代以上)の方が、若年層と比べてネットショッピングの支出額が多い傾向にある。 総務省の調査によれば、ネットショッピングを利用する理由に関して、「24時間いつでも買物ができるから」や「実店舗に出向かなくても買物はできるから」との理由の回答割合は、年代による差が小さい。一方、「買いたいものが検索機能等ですぐに探し出すことができ、時間の節約になるから」や「自宅に持ち帰るのが大変な重いものが手軽に買えるから」といった理由を挙げる人の割合は、年代が上がるにつれて上昇する傾向がみられる(図表7)。一般的に、徒歩での買い物が可能な範囲は自宅から半径400~500mと言われている。比較的経済力があるミドル・シニア層は、実店舗で買い物をする労力や手間を省くために、ネットショッピングでの購入が多いと考えられる。 前述の通り、若い年代ほど、ITリテラシーが高く、ネットショッピングを利用する人は多い。例えば、現時点で「50~59歳」の世帯のネットショッピングの利用率よりも、10年後の「50~59歳」(現在の「40~49歳」)のネットショッピングの利用率は高いことから、ネットショッピングの利用率は今後、ますます上昇すると見込まれる。 また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によれば、総世帯数は2023年まで増加し続け(図表8)、世帯構成は、中高年層の割合が高まる見通しである(図表9)。今後、ネットショッピング支出の多いミドル・シニア層は現時点より拡大すると見込まれる。 以上の状況を踏まえると、ネットショッピングの利用率の上昇と、ネットショッピング支出の多いミドル・シニア層の拡大に支えられ、インターネット通販市場の成長は継続すると思われる。 2|ラストワンマイルにおける人手不足 (1)人手不足の現状 インターネット通販は、「モール型」と「直販型」のビジネスモデルに大別される4(図表10)。「モール型」のビジネスモデルは、ネット上にモールを開設し、複数のネットショップを誘致して、出店料や売上手数料等を収益源とする。自社による仕入れおよび在庫リスクがなく、多くの商品を取り揃えることができる。一方、「直販型」のビジネスモデルは、自社で仕入れを行うため、大きな利益を期待できる半面、多くの在庫を抱えることはできないことから、商品を豊富に取り揃えるは難しくなる。 図表11は、各社のインターネット通販市場の売上高を示したものである。国内でのインターネット通販事業の売上高が2,000億円を超える企業は、アマゾン(約1.3兆円)、ヤフー(約6,000億円)、楽天(約4,000億円)、アスクル(約3,000億円)である。 これまで、アマゾンとアスクルは直販型、ヤフーと楽天はモール型の代表格とされてきた。しかし、最近では、アマゾンの売上高に占めるモール型(「Amazonマーケットプレイス5」)の割合が増加している。モール型の割合を増加することで、商品の品揃えを増やし、利用者の利便性向上を目指していると考えられる。一方、モール型の代表格であるヤフーや楽天では、直販を強化している。即時配送が求められる中で、配送を柔軟にコントロールしやすい直販の利点を重視しはじめたと推察される。このように、大手インターネット通販事業者は、「モール型」と「直販型」を融合したビジネスモデルに向かっている。 インターネット通販の物流は、「モール型」、「直販型」いずれのビジネスモデルにおいても、消費者への配達部分(ラストワンマイル)は宅配便事業者に依存している。そのため、宅配便取扱個数は、インターネット通販市場の拡大とともに、大幅に増加しており、2017年度は約42.5億個に達した(図表12)。宅配便取扱個数の事業者別割合をみると、上位3社(ヤマト運輸㈱・佐川急便㈱・郵便事業㈱)の寡占化が進んでいる。日本郵便「ゆうパック」と日本通運「ペリカン便」が統合した2010年以降は、3社で9割以上のシェアを占めており、2017年度は94.4%に達した(図表13)。 大手3社とも通販市場拡大に伴う需要増大に伴い、宅配便ネットワーク体制の整備を進めてきた。ヤマト運輸は、集荷した荷物を夜間にまとめて幹線輸送していたが、東名阪にゲートウェイターミナルを設置し、日中からゲートウェイ間を多頻度運行することで納品時間を短縮した。佐川急便は、ローソンと合弁会社「SGローソン」を2015年に設立し、ローソン店舗を起点とした配送および御用聞きサービスを開始している。日本郵便は、総額1800億円を投じ、全国20カ所に大規模物流拠点「メガ物流局」を新設する。 前述の通り、宅配便ネットワーク体制の整備は進んでいる。一方、労働需給が極めて逼迫している中で、宅配便の現場では、取扱個数の急増も相まって深刻な人手不足となっている。人手不足の影響を受けて、2017年から2018年かけて、宅配事業者によるインターネット通販事業者に対する配送料金の値上げ要請や荷受け量の総量規制、時間帯指定配達の見直し等が行われた。「宅配便」の輸送指数(日本銀行「企業向けサービス価格指数」)は、企業物流の中心である「貸切貨物」や「積合せ6貨物」の輸送指数と比較して、大幅に上昇している(図表14)。 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「物流コスト調査」によれば、物流サービスが極めて重要な通販企業の売上高物流コスト比率は12%程度と、全業種平均(約5%)に比べて高い水準にある(図表15)。ラストワンマイルを担う宅配便の配送料値上げは、通販企業の業績を悪化させることになる。 また、消費者がインターネット通販を利用する理由として、実店舗で購入するよりも安いという理由は上位に挙がる。配送料の値上げは消費者の負担増につながり、市場拡大の阻害要因として働くと考えられる。 4 林克彦・根本敏則『ネット通販と宅配便における物流革新』国際交通安全学会誌VoL41No.1、平成28年6月 5 各企業がネットショップを出店するのではなく、商品を出品するビジネスモデルのモール型EC。商品のデータ管理はアマゾンを行っている。 6 一台の車両に複数の荷主の貨物を積合せて輸送すること。 (2)人手不足対策 宅配便の取扱個数が急増する中、不在のために持ち帰る「再配達」が、宅配便事業者の更なる負担増を招いている。国土交通省は、「総合物流施策推進プログラム」(2018年1月)において、宅配便の再配達率を、16%程度(2017年度)から13%程度(2020年度)まで削減することを目標としている。また、国土交通省HP上では「再配達削減のために活用をお願いしたい3つの方法」が掲載されている。具体的には、1) 「時間帯指定の活用」、2)「各事業者の提供しているコミュニケーション・ツール等(メール・アプリ等)の活用」、3)「コンビニ受取や駅の宅配ロッカーなど、自宅以外での受取方法の活用」を掲げている。 大手宅配便事業者も再配達削減の取組みを開始している。ヤマト運輸は、宅配ロッカーサービスを展開するフランス企業のネオポストグループと、複数の事業者が共同で利用できるオープン型宅配ロッカーネットワークを構築し、運用するための合弁会社「Packcity Japan株式会社」を2016年5月に設立し、宅配ロッカー事業を開始している。 しかし、内閣府政府広報室が2017年12月に実施した「再配達に関する世論調査」によれば、回答者の7割弱が、宅配ボックスやコンビニでの受取等、いずれも利用したことがないと回答しており、インターネット通販利用者の認知度はまだ低い状況にある(図表16)。 国土交通省「宅配便再配達率」によれば、2018年10月期の宅配便再配達率は、前年調査(2017年10月期)からほぼ変わらず15%と高い水準にある。特に、単身世帯が多い都市部で高い傾向がみられる(図表17)。 ラストワンマイルの人手不足を解消する新技術として、無人飛行機(ドローン)を使った宅配サービスが期待されている。千葉市では2016年1月にドローンの活用に進める国家戦略特区の指定を受け、幕張地区でドローンを使った宅配便配送の実証実験をスタートさせており、2019年度までに実用化したいとしている。具体的には、ドローンで東京湾岸部の物流施設から幕張新都心内の集積所へ輸送し、その上で高層マンションの各住戸へ宅配するサービスを想定している。 幕張新都心の立地優位性 1) (比較的距離が近い)東京湾岸臨海部に物流施設が多く立地している。 2) 配送ルートの大半が海上と一級河川(花見川)の上空である。 3) 幕張ベイタウンと隣接する若葉住宅地区(今後開発予定)と合わせて、約3万6千人の居住人口。若葉住宅地区では、設計段階から、ドローン宅配を視野にいれた検討も可能。 4) 電線が地中化されている 実証実験が行われた幕張新都心は、上記のドローンによる配送ビジネスが成立しうる環境が整っている 。一方、「配送ルートの大半が海上と河川」や「電線が地中化している」地域は限られている。全国でドローンを使った宅配サービスを本格的に実用化するためには、まだ課題が多いと思われる。 このように、再配達削減の取組みやトラック輸送に代わる新技術の開発が行われているものの、ラストワンマイルにおける人手不足が早期に解決することは難しいと考えられる。 3|シェアリングエコノミーの拡大 新たな経済活動の動きとして、シェアリングエコノミー7が注目されている。インターネット通販に関連するシェアリングエコノミーとして、ネットオークションとフリマアプリ8を挙げられる。ジャストシステム「Eコマース&アプリコマース月次定点調査」(2019年3月度)によれば、「個人間商取引(CtoCサービス)を利用したことがある」との回答が約3割を占めており、CtoCサービスの利用が一定程度進んでいる状況が窺える。(図表19)。また、現在利用しているCtoCサービスとしては、「メルカリ」(フリマアプリ)と「ヤフオク!」(ネットオークション)が上位となっている(図表20)。 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によれば、2018年のネットオークションの推定市場規模9は約10,133億円(前年比0.9%増)、フリマアプリの推定市場規模は約6,392億円(前年比32.2%増)と拡大が続いている。 シェアリングエコノミーが更に進展するためには、消費者の不安解消および法規制の再整備が必要との指摘がある10。これに対しては、「シェアリングエコノミー推進プログラム11」の開始や「シェアリングエコノミー促進室」の設置(2017年1月)等、シェアエコノミーの認知度向上等に寄与する取組みが始まっている。 上記の取組み等に後押しされ、今後もシェアリングエコノミー市場の拡大は継続すると見込まれる。 総務省「平成30年版 情報通信白書」では、「シェアリングエコノミーの進展による新市場の創出に伴い、既存市場への負の影響も生じる可能性がある。シェアリングエコノミーが拡大すると新品の購入が減る可能性がある」と指摘されている。インターネットショッピング等に与える影響を懸念される一方で、フリマアプリ等を通じた商品の二次流通が新品の購入意欲を刺激するとの見方もある。現時点では、シェアリングエコノミーの拡大が、インターネット通販市場成長の推進もしくは阻害要因とは断言できない。 ただし、個人から個人へ商品を送るシェアリングエコノミーでは、インターネット通販と同様に荷物の配送が重要となる。上記のメルカリは、ヤマト運輸と提携した出品した荷物の発送サービス「らくらくメルカリ便」を、2018年5月から全国のセブンイレブンの店舗での受付を開始している。シェアリングエコノミーの拡大が宅配便取扱個数をさらに押し上げ、前項に示したラストワンマイルにおける人手不足に拍車をかけることは懸念される。 7 場所・乗り物・モノ・人・お金等の遊休資産をインターネット上のプラットフォームを介して個人間で賃借や売買、交換することでシェアしていく新しい経済の動き。 8 インターネット上の仮想のフリーマーケット内で個人同士が衣料品や雑貨等を自由に売買可能なスマートフォン専用のアプリ(もしくは、仮想のフリーマーケット取引市場の総称) 9 BtoB、BtoCの取引を含む 10 中美尋『シェアリングエコノミーが日本産業に与える影響』みずほ銀行産業調査部、Mizuho Industry Focus、2018年6月21日 11 (1)自主的ルールによる安全性・信頼性の確保、(2)グレーゾーン解消に向けた取組等、(3)シェアリングシティー構想の推進、(4)シェアリングエコノミーの普及・啓発を行う。 3――インターネット通販の成長分野と物流施設利用 前述のとおり、インターネット通販市場の拡大は、ネットショッピングの利用率上昇と、支出の多いミドル・シニア層の拡大に支えられ、継続すると思われる。ただし、ラストワンマイルを支える宅配便における深刻な人手不足等が阻害要因となり、市場の成長スピードが鈍化することも懸念される。 そこで、本章では、インターネット通販市場において、成長余地の大きい分野に着目し、物流施設利用の方向性を考察する。 1|成長余地が大きい分野 (1) 食料品を取り扱うネットスーパーの成長可能性 今後、インターネット通販の市場において、どの分野の成長余地が大きいだろうか。図表21は、市場規模とEC化率12の関係を示したものである。図表1から「食品・飲料・酒類」(市場規模;約64兆円、EC化率;2.6%)は、市場規模が大きく、かつインターネット通販による購入が浸透していないことが分かる。また、消費期限の短い「食品・飲料・酒類」は、そもそもあまりシェアしないので、シェアリングエコノミー拡大の影響は受けないと思われる。こうした観点から、「食品・飲料・酒類」は、インターネット通販の成長余地が大きいと考えられる。 「食品・飲料・酒類」を取り扱うインターネット通販の事業主体の1つに、ネットスーパーがある。一般的に、ネットスーパーの特徴は、1) サービスの範囲が実店舗近辺に限定されていること、2) 取扱商品は「食品・飲料・酒類」のほか日用品などの生活必需品が中心であること、3) 注文された商品の配達は即日・翌日が大半であること、4) 主な利用者は、共働き世帯や子育て中の主婦層であるといった特徴が指摘される13。 現在、主なネットスーパーとして、イトーヨーカ堂が運営する「イトーヨーカドーのネットスーパー」(サービス展開地域;24都道府県)、イオンの「おうちでイオン イオンネットスーパー」(45都府県)、等が挙げられる。 「平成30年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、ネットスーパーの開店率14は、全体で17.7%であるが、51店舗以上の店舗を展開している企業では54.3%に達しており、店舗数が増えるほど開店率が上昇する傾向にある(図表22)。今後の開店意向に関しても、51店舗以上の店舗を展開している企業の34.4%が「積極的」と回答しており、多店舗数運営の企業ほどネットスーパーの新規開店に積極的なようだ(図表23)。 ネットスーパーの主な利用者層として共働き・子育て世帯が挙げられる。総務省「国民生活基礎調査」によれば、18歳未満の子がいる世帯の母親のうち、「仕事あり」と回答した割合は増加傾向にあり、2017年は70.8%に達した(図表24)。仕事と家事を両立する母親が増える中で、インターネットで商品を注文し希望する時間帯に届けて欲しいというニーズは拡大していると考えられる。 また、日本政策金融公庫「平成28年度下半期消費者動向調査」によれば、「ネットスーパー・ショッピングサイト」を利用する理由として、「食料品を運んで貰える」との回答が最も多かった(図表25)。運転免許の自主返納等を行い、買物の負担が大きい高齢者が今後増える中で、食料品や日用品等の宅配ニーズはますます拡大すると思われる。 経済産業省「平成30年度電子商取引に関する市場調査」では、ネットスーパーは「消費者認知の高まりからネットスーパーを利用する会員数が全体的に伸びており、ミールキットの定期宅配といったトレンドも加わって、市場規模は拡大中である。共働き夫婦の増加による家事の簡素化や時短といった社会的背景もあり、今後も当面市場は拡大すると予測される」と、マーケットの拡大が見込まれている。 消費期限の短い生鮮食料品等を取り扱うネットスーパーにおいては、配送サービス(迅速性・利便性、等)が特に重視される。インターネット通販事業者と、主に実店舗で販売を行う小売業者とは顧客獲得の観点では競合関係にあるが、配送サービスの充実等を意図して、連携・協働の動きが広がっている。 楽天は、2018年1月にウォルマートと戦略的提携をし、2018年10月にウォルマートの子会社である西友と「楽天西友ネットスーパー」の運営を開始した。西友は「SEIYUドットコム」を、楽天はネットスーパー事業「楽天マート」を「楽天西友ネットスーパー」に統合した。統合にあたり、千葉県柏市にネットスーパー専用の配送センターを設置し、受注可能件数を拡大した。 ソフトバンクと同社傘下のヤフーもイオンと連携し、ネットスーパーを立ち上げる予定と報道されている。イオンの品揃えや物流網とヤフーのITノウハウを組み合わせて、食品や衣料品、日用品など幅広い品目を扱う予定としている。また、セブン&アイ・ホールディングスは、アスクルの通販サイト「ロハコ」に専用ページを設け、アスクルの配送網を活用する「IYフレッシュ」を2017年11月から東京都新宿区と文京区で開始した。セブン&アイ・ホールディングスの総合通販サイト「オムニ715」と「ロハコ」で相互送客16を実施して、顧客の獲得を目指すとしている。宅配便の現場では人手不足が深刻な問題となる中、「IYフレッシュ」の配送は、宅配便事業者に委託せず、自前(アスクルの物流子会社)で行う。 このような小売業者とインターネット通販事業者の連携・協働によって、配送の効率化と消費者の利便性が向上し、ネットスーパー市場の拡大に寄与すると思われる。 12 すべての商取引額(商取引市場規模)に対する電子商取引額の割合。 13 増田悦男『ネットスーパーの最近の動向と今後の展開』日本工業出版、流通ネットワーキング、2013年11月12日 14 (ネットスーパーを開店しているスーパーマーケット事業者数)÷(スーパーマーケット事業者総数) 15 「イトーヨーカドーのネットスーパー」、「セブンイレブンのセブンミール」、「SEIBU SOGO e.デパート」等が掲載。 16 商品検索において、両サイトの商品情報が反映される仕組み。 (2) ネットスーパーの配送方法 ネットスーパーにおける配送方法は、「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」に大別される(図表26)。「店舗出荷型配送」は、消費者からの注文情報が最寄りの店舗に伝えられ、店舗で荷造りを行い出荷する方法である。一方、「センター出荷型配送」は、注文情報が配送センターに伝えられ、そこから出荷する方法である。 「図表27」では、ネットスーパーにおける配送方法(「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」)の特徴を、先行研究17を参考に、①初期投資額、②受注処理能力、③レスポンス(注文してから届くまでの時間)、④発送コストの4つの観点で整理した。 「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードを受注・梱包・発送業務等に活用するため、配送センターを開設するよりも、初期費用を低く抑えることができる。また、一般的に配送センターから配送するよりも、注文してから届くまでの時間が短くてすむ。 一方、「センター出荷型配送」は、ネットスーパーに関する物流業務(ピッキング、梱包等)に特化した専用の作業ライン(あるいはネットスーパー専用の配送センター)を設置することで、既存店舗の設備や人員を活用する「店舗出荷配送型」と比較して、受注処理能力(作業効率)は高い。また、作業の効率化に伴い、注文一件あたりの発送コストは、「店舗出荷型配送」よりも低く抑えられる。 ネットスーパーに参入する企業は、初期投資額を低く抑えることができるメリットを重視し、当初は「店舗出荷型配送」を選択する企業が多かった18。「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードのスペースの制約上、受注・梱包・ピッキング等に係わる専門設備の導入は困難であり、それらの作業については人手に依存せざるをえない。労働需給が極めて逼迫する中で、物流の現場では、物流施設内作業を行うパート従業員の確保が喫緊の課題となっている。人手の確保が難しい状況下において、今後「センター出荷型配送」を選択する企業が増えると思われる。 ネットスーパーの物流においては、多岐にわたる商品を迅速に入出荷することが求められることから、「センター出荷型配送」を選択する企業は、高機能な設備を有した物流施設に配送センターを設置すると考えられる。 17 広垣光紀『ネットスーパーとチャネル戦略』釧路公立大学地域研究第23号、2011年 18 金弘錫『日本のネットスーパーのロジスティクス戦略に関する研究』高崎商科大学紀要第29号、2014年 2|ネットスーパーの配送センターの設置ニーズが高い地域 ネットスーパーで多く取り扱われる「食品・飲料・酒類」の物流では、特にレスポンスに要する時間の短縮が求められている。そのため、エンドユーザー(消費地)から近い立地に配送センターを設置する必要がある。「食品・飲料・酒類」のインターネット通販市場規模が大きい地域ほど、ネットスーパーの配送センターを設置するニーズが高いと考えられる。 「図表28」は、2018年時点の「食品・飲料・酒類」のインターネット通販市場規模を地域別に推計したものである19。市場規模が最も大きい地域は、「南関東」で(約8,415億円・全国シェア50%)、次いで「近畿」(約3,221億円・19%)、「中部」(約1,801億円・11%)の順となった。人口ボリュームが大きく、ネットスーパー利用率の高い共働き世帯が多い「南関東」(1都3県)が全体の5割を占める結果となった。 直近、東京圏では、大手不動産デベロッパーにより、高機能な設備を有した物流施設が開発・供給されているが、ネットスーパーを運営する事業者はこうした物流施設の有力なテナント候補となるだろう。 19 日本銀行横浜支店が公表した『神奈川県金融経済概況・「神奈川県内におけるインターネット通販の現状」』(2017年9月12日)において、神奈川県内におけるインターネット通販市場規模の推定を行っている。本稿では、同レポートにおける推計方法を参考に、地域毎にインターネット通販市場規模を推計した。 4――市場成長分野に呼応した物流施設ニーズの変化 最後に、今後の成長が見込まれる「食品・飲料・酒類」のインターネット通販(ネットスーパー等)の配送を行う物流施設ではどのような設備・立地条件が求められるかを考察したい。 1|求められる施設規模・設備 (1)施設規模 東京都都市圏交通計画協議会「第5回東京都市圏物資流動調査」(2015年12月)では、「第4回調査以降の継続的な動向として、在庫圧縮を図るための物流施設の集約・統廃合に伴う物流施設の大規模化の傾向が確認される」と指摘されている。コスト削減を意図した物流施設の集約・再編や、物流業務のアウトソーシングの増加を受けて、一定規模以上のスペースが確保できる物流施設へのニーズは強い。 ネットスーパーは、生鮮品等の消費期限の短い商品を取り扱うこともあり、個々の配送センターがカバーする範囲が広範囲となることは少なく、広い保管・荷役スペースは必要とされない。また、施設規模が大きくなると、施設内で働く作業員の確保が困難になることから、中規模程度(延床面積2,000坪程度)の施設を求める事業者が多いと推察される。 (2)設備 荷主企業および物流企業を対象としたアンケート調査20では、物流施設の設備に関して、1) 「BCP対応」(免震等の構造・非常用発電機等)、2) 「多頻度輸送への対応」(トラックバースの数)、3) 「一定水準以上の床荷重および天井高」(有効天井高5.5m以上・床荷重1.5t/m²以上)を重視するとの回答が多かった。 ネットスーパー等の施設でも、作業員の安全を確保する観点から、免震構造等の「BCP対応」は重視されるだろう。また即日・当日配送が求められることから、「2) 多頻度輸送への対応」も重視される。 一方、「一定水準以上の床荷重および天井高」については、ネットスーパー等では、重量物の扱いは少なく、軽量物が中心となるため、高い水準の床荷重は求められない可能性がある。また、インターネット通販の施設では、作業効率から荷物を高く積み上げず、パート従業員が手の届く範囲で保管する。そのため、有効天井高は、フォークリフト等の利用が前提となる5.5m以上も必要としない。 また、ネットスーパー等では生鮮品の取り扱いが多いことから、温度管理が可能(冷凍・冷蔵設備を備えた)な施設へのニーズが高いと思われる。 20 吉田資『これからの物流不動産に求められる機能・役割~「物流不動産の活用戦略に関するアンケート調査」に基づく考察~』  三井住友トラスト基礎研究所Report、2017年4月21日 2|求められる立地条件 国土交通省「平成29年度土地白書」では、「近年は物流施設内の従業員の確保が重要な問題となっており、これを念頭に郊外住宅地の近くや通勤利便性の高い駅に近いこと等も重要な要因となっている」と指摘されている。物流施設内で流通加工や仕分け等を行う施設で増える中で、作業員の確保のしやすさが重視されている。ネットスーパーの配送センターでは、ピッキングや梱包等の作業を行うため多くの人手で必要となる。労働需給が逼迫した状況が続く中で、施設内作業員が確保できる立地は特に重視されるだろう。 また、前述の荷主企業および物流企業を対象としたアンケート調査では、物流施設の立地条件として、1) 「輸送の始点(生産地)および終点(消費地)へのアクセス」、2) 「自動車輸送における交通利便性」(高速道路ICおよび主要幹線道路へのアクセス)を重視するとの回答が多かった。 ネットスーパーでは、レスポンスの速さが重視されることから、配送センターの立地には、消費地(消費者)に近いことが求められる。一方、前述の通りネットスーパーの配送センターでは、遠距離配送は想定しておらず、高速道路ICへのアクセス等はさほど重視されない可能性がある。 5――おわりに 首都圏では、2019年から2020年にかけて、年間約300万㎡の大規模賃貸施設の大量供給が予定されている(図表30)。物流施設の借り手側からみると、以前よりも施設選択の幅が広がっているといえる。 一方、物流施設に求める条件は、インターネット通販市場の拡大等に伴い変化している。例えば、本稿で取り上げたネットスーパーの市場成長に伴い、最終消費者に直接貨物を運ぶ配送センターが増えることで、消費地の近くに立地し、中小規模で温度管理が可能な物流施設へのニーズが高まる可能性がある。これまで以上に設備や立地条件により、需給格差が拡大する可能性があると思われる。 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=62144?site=nli