【特別コラム】浸水マンション損害賠償の「参考」になる判決|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年11月27日 07時30分
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 2019年10月に日本列島を襲った、台風19号および台風21号などによる大水害では、かなりの集合住宅(分譲マンション、賃貸マンション、団地の住棟・・・)が浸水の被害を受けたと思われます。今回は浸水した分譲マンションの損害賠償問題を考えることにしましょう。  国土交通省の水管理・国土保全局「わかりやすい洪水・渇水の表現検討会」が作成した、『家庭での被災想定』という資料があります。その資料は、「浸水による生活への影響例(マンション)」を、次の3段階に分けて分析しています。  資料のURL<http://www.mlit.go.jp/river/bousai/library/pdf/hisai.pdf>  ◆床下浸水(宅地基礎〜50cm)   エレベーター停止    地下駐車場の浸水    電気設備の浸水による停電(全戸)    ポンプ停止による給水停止(水道、トイレ使用不可──全戸)   ◆床上浸水(50cm〜1m)   電化製品、家具・什器類、自動車・バイクの浸水   床・壁、たたみ・じゅうたん・フローリングの浸水    土砂・災害ゴミの大量発生       ◆床上浸水(1m〜)   建具の変形、天床浸水・全壊    設備(流し台、洗面台、便器、浴槽、ガスコンロ、電気製品)の浸水・交換    このように50cmまで、50cm〜1m、1m以上という3段階に分けています。ただし、マンション住民の立場からすると、「地下室浸水」「1階浸水」「2階以上も浸水」という3段階に分けた方が理解しやすいかもしれません。 【■■東京地方裁判所平成15年4月10日判決】  浸水マンションの損害賠償問題を考えるとき、その「参考」になると考えられるのが、東京地方裁判所による平成15年(2003年)4月10日判決です。  不動産に関する判例を調べる場合には、不動産適正取引推進機構(RETIO)の「RETIO判例検索システム」が便利です。  検索システムのURL <http://www.retio.or.jp/case_search/search_top.php?q=1>  キーワードとして「マンション」と「浸水」を入力しましょう。すると2件がヒットしました。そのうち、「平成15年4月10日、東京地裁」と記された方を選択します。  次のような概要文が添えられています──。  新築マンションの買主が、その購入した一階部分に毎年のように浸水被害が発生するとして、建築主兼売主である不動産業者に対して求めた、瑕疵担保責任に基づく契約解除が認められた。  そして、マンション購入関連費用や修補費用の他に、慰謝料等の損害賠償請求が認容された。  しかし、瑕疵あるマンションを設計・監理した業者の不法行為責任は否定され、買主の損害賠償請求が棄却された。 【■■青山節夫氏の論文】  これだけでは情報量が少ないので、「RETIO 61-086」と記されたPDFデータをクリックしましょう。するとそこには、「RETIO.2005.6 NO.61 最近の判例から(9)」という番号の、1本の論文が掲載されています。  論文のタイトルは、「浸水被害が発生する新築マンションについて契約解除が認められた事例(東京地判 平15・4・10 判時1870―57)」、筆者は青山節夫氏です。  ただし、この論文は法律的に厳密に執筆されている反面、一般人にとっては何を説明しているのか、分かりにくい点があります。よって、その内容を以下のように「翻訳」してみました。 【■■青山節夫氏の論文の「翻訳」】  平成6年(1994年)に、何人かのユーザーが、新築マンションの住戸をいわゆる「青田買い」しました。  しかし平成8年9月、マンション1階部分の数戸に、床下浸水等の被害が発生しました。また、平成11年7月にも、1階部分の数戸に床上浸水の被害が発生しました。さらにその後も、浸水の規模や被害の程度はさておき、1年に1回以上のペースで、浸水被害が発生しています。   そのため、1階の住戸を購入した2人のユーザーが、建築主兼売主である不動産業者(A)と、設計・監理を担当した業者(B)を提訴しました。  これに対して、東京地方裁判所は次のような判決を下しました。  ①本マンションの近隣にある類似のマンションでは、敷地に盛り土をしたり、地表面をかさ上げしたりして、マンションを建設している場合が多い。そのため浸水被害が発生していない。  ②すなわち、本マンションで浸水被害が発生しているのは、盛り土やかさ上げをしなかったためと推認される。  ③不動産業者は、本マンションの浸水被害を防ぐために、1階部分に防潮板を設置している。しかし、この防潮板はマンションの機能を著しく損なっている。つまり、本マンションに欠陥があるといわざるを得ない。  ④したがって、1階部分を購入した2人のユーザーは、本件売買契約を解除することができる。  要するに、東京地裁は、「防潮板を設置したから大丈夫」という不動産業者の考えを否定。建物の欠陥をなくすためには、「根本的な対策が必要」と判断したことになります。 細野 透(ほその・とおる)建築&住宅ジャ─ナリスト。   建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。 東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。