【特別コラム】書籍『マンションは水害に弱い』の出版を期待する理由|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年12月12日 07時30分
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 2019年10月に日本列島を襲った台風19号および台風21号は、全国各地に大水害をもたらしました。そのため浸水してしまった集合住宅(分譲マンション、賃貸マンション)も少なくなかったと思われます。  「備えあれば憂いなし」というコトワザがあります。今後の水害に備えるため、信頼できそうな「入門書」を購入して、必要な知識を身に付けなければなりません。  早速、Amazonに、「マンション、浸水」というキーワードを打ち込みました。その結果、検索されたのは、『週刊東洋経済』の最新号だけでした。ただし、同誌に掲載された記事は、私が探していた内容ではありません。  『週刊東洋経済』の次に、何かが続いていました。よく見ると、それは書籍ではなく、「水ピタ防水シート(豊橋消防本部タイアップ企画)」と「TERAOKA 気密防水用粘着テープ」でした。  念のためAmazonに「マンション、水害」というキーワードを打ち込みました(浸水を水害に変更)。すると、4冊の書籍が出てきました。しかし、いずれも、私が探していた「入門書」ではありません。  このように、2019年11月の段階では、「マンション、浸水(水害)」をテーマにした適切な「入門書」は存在しませんでした。  なぜ、「マンション、浸水(水害)」をテーマにした「入門書」が、出版されていないのでしょうか。その理由は「建築基準法」にあります。  建築基準法は建物が耐えなければならない、「地震の震度、台風の風速、積雪の重量」などの設計基準を明確に定めています。しかしながら、「浸水の深さ(浸水深)」については設計基準を定めていません。それゆえに、「マンション、浸水(水害)」をテーマにした「入門書」が執筆されていないのでしょう。 【■■「マンション、地震」で検索すると多数の書籍】  続いてAmazonに、「マンション、地震」というキーワードを打ち込んでみました。すると100冊近い書籍がヒットしました。これは、明らかに建築基準法の影響と思われます。  その「書籍」をザッと眺めると、大きく3タイプに分かれています。  タイプ1「専門書」。住宅・建築・不動産の分野で働く、専門家向けの書籍。  タイプ2「一般書」。マンション管理組合向けの書籍。  タイプ3「パンフレット」。自治体が作成した、市民向けの資料。  このうち、「専門書」「一般書」はいいとして、タイプ3「自治体が作成したパンフレット」は意外でした。  これらパンフレットは、各自治体のウェブサイト経由でも、無料入手できます。ただし、各自治体としてはパンフレットを広く交付したいため、Amazonの「Kindle版(電子書籍)」を利用して無料配布しているようでした。  私が注目したのは、このうちタイプ1「専門書」の中にあった、『マンションは地震に弱い』という書籍です。『マンションは地震に弱い』というタイトルは刺激的です。私はジャーナリストなので、こういうタイトルを見ると、すぐに「読んでみなくては!」という衝動にかられてしまいます。 【■■著者、矢野克巳氏の輝かしい経歴】  書籍『マンションは地震に弱い』は、2006年7月に、日経BP社から発行されました。著者は矢野克巳氏で、「NPO法人耐震総合安全機構」が監修を担当し、さらに建築専門誌の「日経アーキテクチュア」が編集を担当しました。  著者の矢野克巳氏は、日本を代表する建築設計事務所である日建設計に勤務。銀座三愛ビル、船橋中央卸売市場、ポーラ本社ビル、新宿住友ビルなどの構造設計を担当しました。  その後、日建設計東京本社代表、日本建築構造技術者協会会長、日本建築学会元副会長などを歴任。当時は矢野建築コンサルタンツ代表、NPO法人耐震総合安全機構理事という立場にありました。   そういう矢野氏が『マンションは地震に弱い』と銘打ったのですから、やはりインパクトがあります。 【■■『マンションは地震に弱い』の内容】  第1章「大地震発生!、あなたのマンションはこうなる」      シミュレーション、地震発生から避難・復旧まで  第2章「あなたのまちの耐震性」      地域によって災害は異なる、こんな地震が首都圏を襲う      東京の危険エリア・ワースト5        第3章「マンションは揺れる」      マンションは「リスク」が直列、高さが揺れを増幅する      形によって揺れ方が変わる、地盤次第で揺れの大きさは3倍に      構造体の急所を見極める  第4章「共用部分が明暗を分ける」      共用部分対策の考え方、非構造部材の被害と対策      設備機器の被害と対策  第5章「避難行動」      避難の前にすべきこと、マンションからの避難      避難生活の限界  第6章「大地震にどう備えるか」       管理組合が行う地震対策、各住戸で行う地震対策  第7章「総合的な耐震診断を」      生活を守るための耐震性のレベル、総合的耐震診断とは  【■■マンションを水害に強くするために】  書籍『マンションは地震に弱い』は、官公庁、デベロッパー、建設会社、設計事務所、管理会社などで働く「プロ」を中心に広く愛読されました。さらに、マンション管理組合でも活用されていたようです。  それに加えて、マンション分野のメディア(新聞・雑誌・テレビ・ネット)に寄稿する、ジャーナリストやライターにも、参考書として読まれていました。  このように、同書は「信頼できる入門書」が事態の改善に貢献することを示した、貴重な1冊だったと思います。  それゆえに私は、しかるべき出版社が、書籍『マンションは水害に弱い』を発行してくれることを、強く希望しています。それが良書であれば、マンションは水害に強くなっていくはずです。 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。