【特別コラム】集中連載 ⑤タワマン正統史「山あり谷あり」の約40年|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2020年1月18日 07時30分
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 住友不動産が埼玉県与野市(現、さいたま市中央区)に1976年、総戸数463戸の大規模マンション「与野ハウス」を完成させました。今から40年以上も前のことです。  建物は4棟で構成。このうち高層棟は高さ66m、21階建て、塔(タワー)のような形をしているために、タワー型超高層マンションの第1号といわれています。  今回は、タワーマンション(超高層マンション)の歴史を、コンパクトにまとめてみたいと思います。 【■■】きっかけは1997年の建築基準法「大改正」  タワマンはその後、次のようなペースで竣工しました。  1980年代24棟 ──1年に2〜3棟のペース  1990年代158棟──1年に16棟のペース  2000年代691棟──1年に69棟のペース  2010年代487棟──1年に49棟のペース  1990年代には「1年に16棟ペース」だったのに、2000年代入ると「1年に69棟ペース」に跳ね上がっています。なぜ、急増したのでしょうか。  それは、1997年に建築基準法が「大改正」されて、容積率や日陰規制が緩和され、駅前再開発の機運が高まった結果とされています。  参考資料:『Kanteieye vol.100(カンテイアイ100号)        分譲マンション・データブック、1956〜2018』       (東京カンテイ2019年7月発行)  ちなみに、この『100号』は、東京カンテイが2019年10月2日に創立40周年を迎えるのを前に、その記念して発行されたものです。  一読すると分かるのですが、仕事で分譲マンションに関わる人なら、「ぜひ、自分の手元に置いておきたい」と感じるような、優れた出来栄えです。ただし、非売品ですので、入手は難しいかもしれません。 【■■】「分譲マンション年代記」の第Ⅰ章〜第Ⅵ章  さて『カンテイアイ100号』は、大きく「分譲マンション年代記」、「フロー編」、「ストック編」、「都道府県別マンションデータ」という4部で構成されています。  そのうち「分譲マンション年代記」は、6章で構成されています。各章には、記憶に残るタイトルが付けられています。  第Ⅰ章 1956年〜1969年       分譲マンションの登場       〜黎明期のマンション分譲〜  第Ⅱ章 1970年〜1979年       大型団地の時代       〜郊外型ニュータウンの登場〜  第Ⅲ章 1980年〜1989年      「欲しがる人たち」の物語       〜バブル経済と一億総投資家市場へ〜  第Ⅳ章 1990年〜1999年       不動産デフレの光と影       〜デフレ経済下で起こったマンションを巡る3つのこと〜  第Ⅴ章 2000年〜2009年       タワーマンションの時代       〜マンション価格の反転上昇とリーマン・ショック〜  第Ⅵ章 2010年〜2018年       マンション投資商品化時代の去来       〜改めてマンションは誰のものか〜  全体を見渡すと、まさに「分譲マンション正統史」の趣があります。   【■■】ジャーナリストとして体感した「タワーマンションの時代」  このうち、第Ⅴ章「2000年〜2009年、タワーマンションの時代」は、次の4節で構成されています。  第1節 建築基準法の大改正とタワーマンションの急増  第2節 富裕層向け新高額マンションの登場  第3節 マンション価格の反転上昇とリーマン・ショック  第4節 2000年〜2009年のマンション立地の変遷マップ  私は初め、「建築ジャーナリスト」として仕事を始めたのですが、2000年頃からは「住宅ジャーナリスト」にシフトして、分譲マンションを主な取材対象にしていました。  そして取材のため、月に1回くらいのペースで、東京カンテイを訪ねました。『カンテイアイ100号』の編集人である井出武氏は、私の取材に付き合って、丁寧にレクチュアしてくれた一人です。  振り返ってみると、当時は取材の場でも、確かに上記のキーワードが飛び交っていました。 【■■】マンション投資商品化時代の去来    また、第Ⅵ章「2010年〜2018年、マンション投資商品化時代の去来」は、次の4節で構成されています。   第1節 マンションの資産性重視と相続税改正、東京オリンピック  第2節 マンション価格高騰による購入者離れと供給戸数の減少  第3節 1年以内の竣工貸しと2年以内の短期売却の推移で見る投資家の動き  第4節 2010年〜2018年のマンション立地の変遷マップ  最近の10年間を振り返って見ると、主要メディアで最も分譲マンションの報道に注力したのは、日経新聞、日経産業新聞、週刊東洋経済、週刊ダイヤモンドなどの「経済紙」「経済誌」でした。  それは最近の10年間が、「マンション投資商品化時代」であったことの裏返しなのかもしれません。 【■■】タワーマンションの新たな苦難の時代  以上のように、『カンテイアイ100号』は、2000年〜2009年に「タワーマンションの時代」が訪れて、2010年〜2018年に「マンションの投資商品化時代が去来」したと位置付けています。  しかし、その『100号』が2019年7月に発行されたのを見届けたかのように、3ヵ月後の10月になって台風19号が襲来。武蔵小杉に立つタワーマンションの地下が浸水被害を受けました。  そして、タワマンは地震には備えているけれども、浸水には脆弱であることが判明。地球温暖化に伴って台風が大型化し、今後はますます浸水被害が増えるかもしれない危険性が明白になって、各方面に極めて深刻な影響を及ぼしています。  すなわち、「2019年10月から、タワーマンションの新たな苦難の時代が始まった」、ことになるのです。別の言葉を使うと「悲観論が支配する時代」です。 【■■】悲観論を再び克服するために  タワーマンションの歴史を振り返ると、1980年代から90年代にかけても、「悲観論が支配した時代が」ありました。その内容を列挙してみましょう。  高層かつ高密度の住環境に伴う「事故と犯罪への不安」  エレベーター利用に伴う「行動の制約」   ストレスがもたらす「心理的、生理的な影響」  超高層建築物が周辺環境に及ぼす「悪い影響」  地震・火災・台風(暴風)などの「災害に対する不安」  しかし、関係者が苦労と努力を重ねた末に、少しずつ実績を積み重ねてきた結果、「悲観論を何とか克服できた事実」があることを忘れてはいけません。 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。