【特別コラム】集中連載⑥ 2009年時点の「新築タワマン3大長所」|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2020年1月22日 07時30分
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 タワーマンション(超高層マンション)を話題にするとき、必ず出てくるのが「長所と短所」というテーマです。とはいっても、タワマン第1号の「与野ハウス」が1976年に完成してから、すでに44年が過ぎています。 「歌は世につれ、世は歌につれ」という言葉があるように、時代によってマンションを設計・施工する技術も変わりますし、社会の価値観も変わってきます。  私がこの「タワマン連載」に着手したのは2019年です。よって「2019年時点」、およびそれから10年前の「2009年時点」という2つの時点に分けて、タワマンの「長所と短所」を比較してみたいと思います。  なお、東京カンテイが2019年7月に発行した『カンテイアイ100号』によると、2009年と2019年のタワマン棟数は次の通りです。  2009年のタワマン棟数──約850棟(下記の約65%)  2019年のタワマン棟数──約1340棟(上記から約500棟増) 【■■】お金で「眺望」を買う居住スタイル  ところで、「2009年時点」のタワマンの「長所と短所」は、どうやって調べればいいのでしょうか。実は私自身が2009年の11月〜12月に、既に3本の記事を執筆していました。  超高層マンションの長所と短所(前編)   ──お金で「眺望」を買う居住スタイル(11月4日)  超高層マンションの長所と短所(中編)   ──住みこなすには「タフさ」が必要(11月18日)  超高層マンションの長所と短所(後編)   ──入居者間の「経済格差」にともなう苦労(12月17日)  前編・中編・後編の3本の記事は、取材で得た情報を基にして「体験的」に執筆したものではなく、それに加えて以下に示すような「学術的な資料」を根拠にしています。 【■■】日本建築学会などの論文を中心にした参考資料 (1)「高層居住に対する批判の論拠」    (大森峰輝、デザイン学研究48号4巻、2001年11月、日本デザイン学会) (2)「特集─超高層マンションと都市居住」    (マンション学第20号、2004年12月、日本マンション学会) (3)「シンポジウム資料─超高層集合住宅の可能性と問題点」    (2005年7月、日本建築学会) (4)「シンポジウム資料─超高層建築物の維持・保全の現状と課題」    (2006年3月、日本建築学会関東支部) (5)「マンションは地震に弱い」    (矢野克巳著、日経アーキテクチュア編、2006年7月、日経BP社) (6)「研究協議会資料─超高層ビルの火災安全を再考する」    (2006年9月、日本建築学会防火委員会) (7)「超高層マンションの問題点と課題」    (藤本佳子、日本建築学会近畿支部研究報告集、2007年) (8)「高層難民」    (渡辺実、新潮新書、2007年4月) (9)「長男・長女はなぜ神経質でアレルギーなのか」    (逢坂文夫著、2007年11月、講談社+α新書)  さて、タワマンの「長所と短所」に焦点を当てた3本の記事は、日経BP社の「SAFETY JAPAN」というウェブサイトに掲載されました。したがって、3本の記事のURLを示せば「一件落着」です。しかし、調べてみると、そうはいかない事情がありました。  遺憾なことに、同社が「SAFETY JAPAN」を閉鎖してしまったのです。このあたりが、インターネット記事の弱点ですね。仕方がないので、3本の記事を全面的にリライトすることにしました。 【■■】長所その1「眺望と採光に恵まれた高層階」    まず、タワマンの長所からいきましょう。最大の長所は、なんといっても眺望に恵まれていることです。東京のタワマンに住むと、都心の街並み、皇居の緑、東京湾の水辺、富士山の雄姿などを一望できます。  昼だけではなく、夜の景色も印象的です。坂の多い神戸、函館、長崎の街を、坂の上から見下ろした光景を、「百万ドルの夜景」と呼びます。タワマンの高層階からは、居ながらにして百万ドルの夜景を楽しめるのです。  タワマンの住戸のリビングには、窓の下部に腰壁がある「通常型ウィンドウ」と、窓が床から天井まで立ち上がる「パノラマウィンドウ」の2種類があります。また、バルコニーのある住戸と、バルコニーのない「ダイレクトスカイビュー」住戸とがあります。  このうち、最も眺めがいいのは、窓が床から天井まで立ち上がる大型の「パノラマウィンドウ」越しに、ダイレクトに「スカイビュー」を楽しむ住戸です。  ただし、少しスリリングな感じもあるので、高所恐怖症の人は落ち着かないかもしれません。  タワマンはまた、採光や通風の面でも有利です。中低層マンションでは、北側に面した住戸は暗くなりがちなのですが、タワマンの高層階になると、光をさえぎる建物が少ないため、北側でもある程度の採光を確保することができます。  同じような理由で、高層階では通風がよく、暑い夏でも窓を開けると気持ちのいい風が通り抜けて、室内を何度か涼しくしてくれます。 【■■】長所その2「セキュリティ・レベルの向上」  「眺望」に次いで評価が高いのが、セキュリティです。    分譲マンションでは、建物の入り口から住戸の玄関ドアに至る、アプローチ空間が重要です。まず、入り口のドアを開けて、玄関ホールへ入ります。次に、エレベーターホールに進み、エレベーターに乗って、居住階に達します。そして、居住階でエレベーターを降り、廊下を通って住戸に着き、玄関ドアを開けて室内に入ります。  初期のタワマンでは、このアプローチ空間に潜む「死角」で、犯罪が起こる可能性がありました。  しかし、監視カメラ、非接触キー、インターフォンなど諸技術の発達とともに、セキュリティのレベルが向上しました。入り口で鍵を使い、エレベーターホール入り口でも鍵、エレベーター操作部でも鍵、住戸玄関でも鍵と、何重もの鍵でガードされているマンションも珍しくありません。  それ以外に、管理人の常駐、コンシェルジュの待機、ガードマンによる24時間警備など、人の目による見守りもあります。タワマンはかなり安全な空間になっています。  このように、不特定多数の人間が入り込みにくい構造になっているため、住民のプライバシーも守られやすくなりました。  民主党が勝利し、鳩山由紀夫代表が総理大臣に指名されることになった2009年8月の総選挙で、タワマンに「追い風」が吹いたことありました。  運動員がビラを配ろうとしても立ち入りを断られ、「どうやって呼びかければいいのか」と嘆く様子がメディアで伝えられて、タワマンのセキュリティが話題になったのです。  これは、道路に面してすぐに玄関があることが多い、一戸建て住宅とは大違いです。 【■■】長所その3「共用施設や諸設備の充実」  さらに、総戸数が多いため、共用施設や設備が充実している利点もあります。ロビーラウンジ、コンシェルジュデスク、宅配ロッカー、インターネット回線、駐車場、集会室、ゲストルーム、ジムなどなどです。  単身女性やDINKS世帯などは、専有面積が30~60平方メートルの住戸で構成される、コンパクトマンションを好む傾向があります。しかし、コンパクトマンションは小規模であることが多く、結果として、共用施設や設備が不十分になりがちです。このため、コンパクトマンションを回避して、代わりにタワマンのコンパクト住戸を選択する人たちも存在します。  以上をまとめると、2009年頃に新築されたタワマンの特徴は、「眺望と採光に恵まれた高層階」、「セキュリティ・レベルの向上」、「共用施設や諸設備の充実」という3大長所を備えていたことになります。   【■■】追記「2019年時点の長所」  それでは2009年から10年後の、「2019年時点の新築タワマンの長所」としては、何を挙げればいいのでしょうか。誠に遺憾なことに、「日本建築学会などの論文を中心にした参考資料」を調べても、ここで引用できるようなものは見当たりませんでした。  そこで、資料探しの方向を転換。「住まいに関する総合情報サイト」である、リクルート住まいカンパニーの『スーモ(SUUMO)』とライフル社の『ホームズ(HOME'S)』のコンテンツを、チェックしてみることにしました。  すると『ホームズ(HOME'S)』には、2019年1月16日にアップされた、「タワーマンション(タワマン)とは? 定義とメリット・デメリットについて解説」という記事が掲載されていました。  <https://www.homes.co.jp/cont/buy_mansion/buy_mansion_00462>  ◆タワマンに住むメリット  (1)眺望が良い部屋がある。  (2)便利な場所にあることが多い。  (3)共用設備が充実しているケースがある。  (4)土地評価額が低くなり、税制面で有利な場合もある。   「眺望が良い」と断言するのではなく、「眺望が良い部屋がある」という言葉を使っているように、全体として抑えた表現になっています。 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。