【特別コラム】集中連載⑧ 2009年時点の「新築タワマン短所6〜8(後編)」|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2020年1月29日 07時30分
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 前回の「2009年時点の新築タワマン短所1〜5(前編)」に続いて、今回は「2009年時点の新築タワマン短所6〜8(後編)」をテーマにしたいと思います。  念のために、短所1〜5(前編)の内容を復習しておきましょう。  短所1「エレベーター利用に伴う行動の制約」  短所2「室内に閉じこもることによる悪影響」  短所3「ストレスがもたらす心理的、生理的な影響」  短所4「高層かつ高密度の住環境に伴う事故と犯罪」  短所5「災害時に高層難民になる可能性」  これにたいして、短所6〜8(後編)は次のような内容です。  短所6「入居時点の修繕積立金が少なすぎる問題」  短所7「入居者間の経済格差が大きいため、管理組合がまとまりにくくなる問題」  短所8「周辺の環境に及ぼす悪い影響」   このうち、短所1〜5(前編)は、一般の人でも、新築タワマンに入居する前に「ある程度、予想することが可能な問題」です。  しかし、短所6〜8(後編)は、一般の人にとっては、新築タワマンに入居する前に「予想することが不可能に近い問題」です。平たく言うと、「そんなことは知らなかった」とボヤキたくなるような内容です。 【■■】短所6「入居時点の修繕積立金が少なすぎる問題」  タワーマンションは当然のことながら、定期的に補修しなければなりません。そのためには、管理組合で補修工事の時期を検討し、工事費用を見積もって、その上で1戸当たりの修繕積立金を決める必要があります。  この問題に関して、国土交通省は2011年4月に、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を策定しました。 <https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf>  同ガイドラインの「はじめに」に書かれている文章を、建築&住宅ジャーナリストという立場の私が、分かりやすく「翻訳」してみましょう。  ①ユーザーは、修繕積立金の適正な額について、十分な知識を持っていません。  ②マンション分譲事業者は、それを見透かして、修繕積立金の「当初の月額」を著しく低く設定する傾向があります。  ③その結果、必要な修繕積立金が十分に積み立てられないため、修繕工事費が不足するケースが少なくありません。  ④その一方で、ユーザーは、修繕積立金の額が少ないのに釣られて、自分が支出できる金額を超える分譲マンションを購入してしまうことになります。  ⑤ユーザーが、上記②・③・④の事実に気がつくのは、マンションを購入して、管理組合に「修繕計画委員会」ができて、工事業者から見積もりを取った段階になります。  ⑥しかし、それでは「後の祭り(時期に間に合わず手遅れなこと)」です。  ⑦そのため、修繕工事がいつまでも実施できないことになります。  ⑧したがって、管理組合の中で、経済的にゆとりがある人とゆとりがない人が対立してしまいます。  ⑨ゆとりがある人は、「修繕積立金を大幅に増額して早く修繕工事を実施した方が得になる」と主張します。  ⑩ゆとりがない人は、「修繕積立金を大幅に増額されると家計が破綻してしまう」と主張します。  ⑪結果として、途中から値上げせざるを得ないのですが、それを払えない、または払い渋る入居者が現れて、管理組合の苦労が絶えることはありません。 【■■】国交省のガイドラインに掲載された原文  私の「翻訳」を読んで、「国交省は本当にそんなことを書いているのか?」と、疑問に思う人がいるかもしれません。  そういう人は、自分で「ガイドラインに掲載された原文」を、読んでみてください。ただし、「堅い言葉で書かれたお役所の文書」を読み慣れていない人は、すぐにギブアップしてしまうことは必至です。 <https://www.mlit.go.jp/common/001080837.pdf>  ということなので、「原文の意味を理解しやすいように、箇条書きにした」のが、以下の文章になります。  ⓐマンションの良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、将来予想される修繕工事を盛り込んだ長期修繕計画を策定し、これに基づき、月々の修繕積立金の額を設定することが重要となります。  ⓑ一般に、マンションの分譲段階では、分譲事業者が、長期修繕計画と修繕積立金の額をマンション購入者に提示しています。  ⓒマンション購入者は、修繕積立金等に関して必ずしも十分な知識を有しているとは限らず、修繕積立金の当初月額が著しく低く設定される等の例も見られます。  (※注)ここが問題の個所です。  ⓓその結果、必要な修繕積立金が十分に積み立てられず、修繕工事費が不足するといった問題が生じているとの指摘もあります。  ⓔ今般、こうしたことを背景に、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示した「修繕積立金に関するガイドライン」を策定しました。  ⓕ本ガイドラインが活用されることによって、新築マンションの購入予定者の修繕積立金についての関心や理解が深まるとともに、適正な修繕積立金の設定・積立が促進され、適時適切な修繕工事を通じた良質なマンションストックの形成に寄与することを期待しています。 【■■】短所6(続き)「入居時点の修繕積立金が少なすぎる問題」  国交省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」が対象にしているのは、普通の分譲マンションです。それではタワーマンション(超高層マンション)だと、どうなのでしょうか。  超高層マンションの補修工事は、前例が少ないのに加えて、個々のマンションの外形にも大きく左右され、さらには天候にも影響されてしまいます。工期に関しては、平均でも6ヵ月、最長では1年程度はかかっています。  このような点を考慮して、「超高層マンションの補修費用は、モデルマンションの2倍以上になっても不思議ではない」、とする見方が大半です。そういう実態について、個々の入居者はきちんと理解しているのでしょうか。また、理解できたとしても、それをきちんと負担できるのでしょうか。  修繕費用を捻出できなければ、いわば「金食い虫」であるタワマンはボロボロになって、資産価値を急激に下げてしまいかねません。 【■■】短所7「入居者間の大きな経済格差」    超高層マンションの第7の短所は、入居者間の「経済格差」が大きいため、「管理組合がまとまりにくくなる」という問題です。超高層マンションの入居者は、よく言えば「多様」であり、ありていに言えば「経済格差」が極めて大きいのです。  たとえば、東京都江東区に2000年代前半に竣工した、50階建てクラスのマンションがあったとしましょう。  ⓐ低層階(1~9階)にある住戸の平均単価は40万円程度。   ファミリー向け専有面積60平方メートルの住戸価格は2400万円。   主に「節約志向が強い人たち」が購入。  ⓑ中高層階(20~29階)にある住戸の平均単価は46万円程度。   ファミリー向け専有面積80平方メートルの住戸価格は約3700万円。   主に「少しゆとりがある人たち」が購入。  ⓒ最上層階(50階)にある住戸の平均単価は67万円程度。   ファミリー向け専有面積110平方メートルの住戸価格は約7400万円。   主に「富裕層」が購入。  入居する段階では、それぞれの経済事情に従って、低層階・中高層階・最上層階を選択します。  ここまではいいいのですが、問題は入居後の修繕積立金です。2000年代前半に竣工したマンションの月額平均積立金は、平方メートル当たり122円程度でした。  富裕層が購入した110平方メートルの住戸  「122円×110」=約1万3400円  節約志向が強い人たちが購入した60平方メートルの住戸  「122円×60」=約7300円  しかし、現実問題としては平方メートル当たり122円程度では不十分で、ゆとりを考えるとその2倍程度は必要とされています。  富裕層が購入した110平方メートルの住戸の「目標値」   約1万3400円×2=2万6800円  節約志向が強い人たちが購入した60平方メートルの住戸の「目標値」   約7300円×2=約1万4600円  富裕層にとっては月額2万6800円という修繕積立金は「まったく気にならない金額」でしょう。しかし節約しなければならない家族にとっては、月額約1万4600円という修繕積立金は「大いに気になる金額」です。  そのため、管理組合で「修繕積立金の増額」に反対。したがって、修繕工事を実施できなくて、マンションの老朽化を食い止められないという、「非常にまずい状態」に陥ってしまうのです。 【■■】短所8「周辺の環境に及ぼす悪い影響」  タワマンの第8の短所は、周辺の環境に及ぼす「悪い影響」です。超高層のタワマンが建つと、周辺の建物は日照が遮られるだけではなく、視界が悪くなって圧迫感が強まり、電波障害が発生することもあります。  そして、無視してはいけないのは、風の流れが乱れる「ビル風」です。ビル風は、周辺の住民に迷惑をかけるだけではなく、超高層マンションの入居者自身にも害を及ぼします。  そして、最大のジレンマは、タワマンの入居者のほとんどが、「せっかく気にいっていた景色が見えなくなると困るので、近くには超高層を建設してほしくない」と願っていることです。自分には許してほしいが、他人には許したくないないとする考え方は、論理的に破綻しています。 【■■】日経『限界都市』が突き付けた2019年の現実  日経プレミアムシリーズから、2019年2月に、『限界都市 あなたの街が蝕まれる』と題する書籍が出版されました。編者は日本経済新聞社、発行は日経新聞出版社です。  全5章のうち、第1章ではタワマンを厳しく批判しているのが印象的でした。  第1章 タワマン乱立、不都合な未来像   1「住みたい街」武蔵小杉の憂鬱   2 児童があふれる小学校    3 再開発が招く住宅供給過剰   4 開発ありき、かすむ公共性   5 都市開発の歩み──タワーマンションが乱立する  第2章 マンション危機、押し寄せる「老い」の波   第3章 虚構のコンパクトシティー  第4章 脱・限界都市の挑戦 【■■】追記「2019年時点の短所」  それでは2009年から10年後の、「2019年時点の新築タワマンの短所」としては、何を挙げればいいのでしょうか。誠に遺憾なことに、「日本建築学会などの論文を中心にした参考資料」を調べても、ここで引用できるようなものは見当たりませんでした。  それで、資料探しの方向を転換。「住まいに関する総合情報サイト」である、リクルート住まいカンパニーの『スーモ(SUUMO)』とライフル社の『ホームズ(HOME'S)』のコンテンツを、チェックしてみることにしました。  すると『ホームズ(HOME'S)』には、2019年1月16日にアップされた、「タワーマンション(タワマン)とは? 定義とメリット・デメリットについて解説」という記事が掲載されていました。  <https://www.homes.co.jp/cont/buy_mansion/buy_mansion_00462>  ◆タワマンに住むデメリット  (1)自分の部屋までの移動が大変。 (2)洗濯物や布団を干すことができない場合がある。 (3)14階以上の場合、携帯電話の電波が入りにくい。 (4)大規模修繕にどの程度の費用がかかるかわからない。  私は、「タワマンの14階以上に入居した、家計を預かる専業主婦から聞いたコメントではないか」、と感じました。 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。