【特別コラム】集中連載⑨「タワマン階層カースト」の起源を探す|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2020年2月1日 07時30分
no image
 タワーマンション(超高層マンション)は都市の中でも一際、目立つ存在です。そのため、色々な「話のタネ」にされてしまいます。その中でも注目度が高いのが、「タワマンの階層カースト」とか「タワマンのママカースト」というキーワードだと思います。  小学館の「デジタル大辞泉」によると、「カースト」という言葉には、次のような意味があります。  ⓐ インド社会で歴史的に形成された身分制度。  ⓑ 階級制度、地位。  ⓒ アリなどの社会性昆虫に見られる役割の階層。  タワマンの住戸は、「高層部」は広くて価格もグーンッと高いのに、「中層部」は広さも価格も中位で、「低層部」は狭くて価格も安い、という構成になっています。  そのため自ずと、高層部には「富裕層」が住み、中層部には「少しゆとりがある層」が住み、低層部には「平均的な層」が住むことになります。これが「カースト」を連想させるのかもしれません。 【■■】タワマン「階層カースト」「ママカースト」の語源探し  さて、「タワマンの階層カースト」や「タワマンのママカースト」という言葉は、「いつ、誰が、創り出した言葉」なのでしょうか。私は日本建築学会の会員なので、この種の疑問を抱いたときには、まず日本建築学会の「論文検索システム」で調べる習慣がついています。  そのため論文検索システムに、「カースト」というキーワードを打ち込みました。すると6本の論文が並んでいました。そのトップが、「ムンドラ(インド、カッチ地方)における街区構成とカーストの住み分け」と題する、2009年に発表された論文でした。  カーストとは人間を、バラモン(司祭者)、クシャトリヤ(王侯、武士)、バイシャ(庶民)、シュードラ(隷属民)という4つの階級に分ける制度です。  著者は滋賀県立大学の研究者と大学院生、早稲田大学の研究者の3人です。ざっと目を通すと、2006年・07年・08年と3回も現地を調査し、ムンドラの街区がカースト制度によって構成されている事実を確認した上、多数の精密な図面も添えた「優れた労作」でした。  また残る5本の論文も、いずれも東南アジアの諸都市を調査対象にしたものでした。すなわち、「タワマンの階層カースト、ママカースト」とは、縁もゆかりもありません。 【■■】「なわばり」と「カースト」の関係  「建築学会の論文検索システムで得られる情報はこれまでかなぁ」と思っていると、ずいぶん前に、「集合住宅のなわばり学」という本を読んだことを思い出しました。「なわばり」と「カースト」を比べると、何だか似た感じがします。しかし今では、私の本棚に同書は見当たりません。  そこでAmazonで調べると、同書は1992年に彰国社から出版され、著者は小林秀樹氏であることが分かりました。ただしAmazonには、「この本は現在お取り扱いできません」というメッセージが載っています。  ということで、次は中古本も扱うブックオフオンラインで調べると、再びメッセージがありました。「ご指定いただいた検索条件に該当する商品がみつかりませんでした」。  でも、ここであきらめる訳にはいきません。そこで、著者の小林秀樹氏の名前をたどると、「千葉大学工学部小林秀樹研究室」にたどり着きました。そして、「ナワバリ学の教え」と題する10本のコラムが掲載されていました。  教え① 住み続けたくなる賃貸アパートとは何か  教え② 植木鉢の効果を生かす  教え③ 入居者が手を加えられる賃貸アパート  教え④ 持家感覚を生むスケルトン賃貸  教え⑤ 植木鉢は防犯性を高める  教え⑥ 若者とファミリー世帯が地域に混ざり合って住む  教え⑦ 大家が近くに住むアパート経営のよさ  教え⑧ 窓の形状がナワバリ意識を左右する  教え⑨ 引越の挨拶は騒音トラブルを避ける知恵  教え⑩ アパート設計の新潮流 コミュニティ志向の民間アパートが増加  これを読むと、「ナワバリ学」とは賃貸アパートの入居者同士がいい意味のコミュニティを築き、「いい雰囲気で暮らしていきましょう」という趣旨でした。すなわち、「タワマンの階層カースト」「タワマンのママカースト」とは何の関係もありません。 【■■】「タワマンのママカースト」の発信源は「週刊朝日」?  「タワマンの階層カースト」「タワマンのママカースト」という言葉の発信源は、学術の世界を離れた柔らかいメディア、すなわち新聞、月刊誌、週刊誌ではないかと思われます。  そのため、フリー百科事典「ウィキペディア」を試してみました。まず「階層カースト」で検索すると、以下のようなメッセージがありました──。このウィキでページ「階層カースト」を新規作成しましょう。しかし今回は、記事を書くための検索なので、これはパス。  次に、「ママカースト」で検索すると、手応えがありました。  ──ママカーストとは、現代の日本において母親であることを共通とした友達付き合い(ママ友)において見られる序列のことを、身分制度のカーストになぞらえて呼んだ表現。  さらにはマンションの何階のどの部屋に住んでいるかなどの事柄も含まれており、住んでいる部屋が自身の身に付けている物や、年収に見合っていないならば気まずい思いをすることになる[1]。  ママ友カーストはママ友いじめを助長しているという見方もあり、問題視されるようになった[2][3][4]。 <https://ja.wikipedia.org/wiki/ママカースト>  このうち上記の[1]をクリックすると、「お宅は何階の部屋?」──ママカースト制の終わらぬ地獄」(週刊朝日2008年2月11日号)にたどり着きました。その一部を引用します。  タワーマンションに住む母親軍団は、ママバッグを同じブランドで揃え、「タクシー使って来ちゃった」と何かにつけ優位に立ちたがる。マンション軍団は大半が地方出身。生まれも育ちも東京のケイコさんから見ると、マンションのある場所は昔はガラが悪くて歩けなかった地域。知らないから住めるんだわ、とひそかに優位に立つ・・・。 【■■】女性ファッション誌の「低層階“あるある”」「 高層階“あるある”」  タワマンの歴史を振り返ると、次のようなペースで竣工してきました。  1期 1980年代24棟 ──1年に2〜3棟のペース  2期 1990年代158棟──1年に16棟のペース  3期 2000年代691棟──1年に69棟のペース  4期 2010年代487棟──1年に49棟のペース  ママカーストという言葉ができた2008年は、タワマンがすごい勢いで竣工していた、第3期の終わり頃ということになります。  それから8年後の2016年10月に、出版社の宝島社がプレスリリースを出しました。  <https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000442.000005069.html>  ──30代女性ファッション雑誌『InRed(インレッド)』は、最新号の11月号(2016年10月7日発売)にて、「カーストに悩む女たち」を特集します。  同号では、ママ友や職場、タワーマンション内での人間関係において、カースト(格付け)に悩む30代女子の様々な実態を紹介しています。中でも近年増えているのが、「タワーマンションカースト」。  「タワーマンションカースト」とは、タワーマンションにおけるヒエラルキーのことで、住んでいる階層がそのままカーストの順位になっています。  各階層における住民の特徴としては、上層階は会社経営者や開業医・芸能人などのセレブ、中層階は有名企業会社員や共働き富裕層、低層階は憧れで購入した一般人や投資用に購入しているケースが多いようです。  また、階層ごとにエレベーターが異なったり、内装が違うといった「フロア格差」などに悩む低層階の方がいる一方、高層階の方は「強制ランチ」や「ゴミ出し時もメイクやファッションに気が抜けない」といった悩みを抱えています。 【低層階“あるある”】  エレベーターで階を押すのが恥ずかしい  中層・⾼層の方から、持ち物チェックされる  ネット掲示板のチェックは欠かせない   【高層階“あるある”】  ⾼層住⺠からの強制ランチのお誘い  ゴミ出しやコンビニに⾏くときもメイクやファッションに気が抜けない  周囲にあわせて、⾞も⽝もセレブ仕様──  宝島社のプレスリリースだけあって、とても分かりやすく書いてあります。よって、私は、そのまま「コピペ」させてもらうだけでした。 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。