【特別コラム】いい加減な「不動産投資本」に、なぜ30〜40代がだまされたのか?|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年3月20日 09時15分
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 サブリース方式で、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営していたスマートデイズが、経営破綻したのは2018年4月のことでした。  それから約10ヵ月経った2019年2月。今度はレオパレス21のアパートに、施工不良があることが発覚しました。しかも、建築基準法に違反している可能性が高いため危険性が高く、入居者が退去を迫られるという、極めて深刻な事態に陥っています。  全国3万9000棟余りのアパートのうち、2月下旬時点で施工不良があるアパートは1万1000棟を超え、また退去を迫られている入居者は最低でも1万4000人以上とされています。  2019年2月13日付の日本経済新聞は、こういった事件を受けて、「アパート融資の退潮鮮明 昨年は新規16%減、スルガ銀行問題で慎重に」と題する記事を掲載しました──。 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO41172210S9A210C1EE9000  「アパートやマンションといった、投資用不動産の取得資金を対象にした個人向け融資の退潮が鮮明だ。富裕層や会社員らの不動産投資ブームで急拡大してきたが、不正融資が横行したスルガ銀行の問題で他の銀行も慎重な姿勢に転じた」。  「アパートの施工・管理を手がける東証1部上場のTATERUでも、建設資金の借り入れ希望者の預金残高を水増しするなどの改ざんが18年8月末に発覚。アパートの建設資金を融資してきた山口県地盤の西京銀行は8月末以降、新規案件への融資を止めている」──。  今回は、こういった一連の事件で、「なぜ30〜40代の不動産投資家がだまされたのか」を、考えてみたいと思います。ポイントになるのは、「いい加減な不動産投資本」の影響です。「かぼちゃの馬車」事件を例にとってみましょう。 【■■「かぼちゃの馬車」事件の仕組み】  「かぼちゃの馬車」事件には、700人〜800人もの不動産投資家が巻き込まれました。年齢的には30代〜40代が中心で、大手企業の社員も多く、1人当たり約1億円超の被害を受けたと報じられています。  「かぼちゃの馬車」事件は、おおよそ次のような内容でした。 (一)スマートデイズ(旧スマートライフ)がビジネスモデルの独自性をアピールした。  「当社としては、上京してくる大勢の女性に大手企業の仕事をあっせんし、その企業から紹介料を受け取るというビジネスモデルを確立しました」。 (二)続いて、甘い言葉で不動産投資家を誘った。  「投資家の皆さんがアパートを建設すれば、上京してくる大勢の女性たちから、家賃収入を得ることができます。例えば10戸のアパートで、1戸当たり月7万円の家賃を保証した場合、管理費などを差し引いても月50万円くらいは残ります」。 (三)さらに、スマートライフ社(スマートデイズ社の当時の社名)の大地則幸社長が、ダイヤモンド社から書籍を発行して「箔」をつけた。  2016年8月26日に、当時の大地則幸社長がダイヤモンド社から書籍を発行しました。同社は『週刊ダイヤモンド』を発行していますので、著書を持つと「箔がついて」、信用されやすくなります。  本のタイトルは、『「家賃0円・空室有」でも儲かる不動産投資、脱・不動産事業の発想から生まれた新ビジネスモデル』。  アマゾン書店の内容紹介には、「事業開始2年で建設した500棟がすでに420人の投資家に購入され、さらに現在も急ピッチでその数を伸ばしている」と記されています。この文章は効果が大きいでしょうね。 (四)営業スタッフがダメ押しをした。  「土地をお持ちでなかったら、私どもがいい土地をご紹介します」。「建築会社をご存知なければ、私どもがいい建築会社をご紹介します」。「また、必要な資金を手当てするために、スルガ銀行をご紹介します」。 (五)実際には、スマートデイズの話は嘘だらけだった。  そもそも、スマートデイズが紹介した土地は、いい土地ではなかった。また、スマートデイズが紹介した建築会社の建築費は、相場よりかなり高かった。そしてスルガ銀行も、「投資家が実際に利益を上げるのは難しい」ことを知りながら、土地代や建築費をせっせと融資した。 (六)不動産投資家が直面した厳しい現実。  投資家がいろいろ苦労してアパート完成させても、実際には入居者が極めて少なかった。やむを得ず、家賃を下げるなどしたため、収支計画は大幅に悪化した。 (七)不動産投資の総決算。  ほとんどの投資家が多額の借金を抱えて、立ち往生してしまった。 【■■『週刊ダイヤモンド』の「不動産投資の罠」特集】  『週刊ダイヤモンド』2018年9月8日号は、「まだまだあった不動産投資の罠」を特集。そのパート1「スルガスキーム破綻の全貌」では、32ページの冒頭で次のように述べています。  ──多数の被害者を出した「かぼちゃの馬車」問題。その中心的役割のスルガ銀行とスマートデイズが描いた「スルガスキーム」の闇について、被害者になったオーナー3人の話をもとにして明らかにしていく・・・。  スルガ銀行横浜支店を舞台に、シェアハウス運営会社のスマートデイズ(旧スマートライフ)と、販売会社(不動産仲介会社)が連携し、投資家たちをセミナーに集めるところから始まった──。  すなわち、投資家たちはセミナーに出席して、不動産投資を「やる気」になったようです。  別の言葉を使うと、投資家たちはセミナーに参加したために「洗脳」されて、泥沼に引きずり込まれてしまったのです。  実は、この特集で私が密かに注目していたのは、大地則幸社長の著書、『「家賃0円・空室有」でも儲かる不動産投資、脱・不動産事業の発想から生まれた新ビジネスモデル』の扱いでした。  本「特別コラム」の冒頭に、その表紙写真を掲載しています。  実際問題として、大地氏は「かぼちゃの馬車」事件が発覚した2018年2月21日に、朝日新聞が行った取材に対して、つぎのように答えています。  記者「自身の著書に入居率9割と書いてある?」  大地氏「書いてあるとすれば、それはライターのミス。僕は執筆していないから」 https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:ZE2DFyEBwcoJ:https://www.asahi.com/articles/ASL2N4D9ZL2NULFA015.html+&cd=1&hl=ja&ct=clnk&gl=jp&client=firefox-b-d (※編集部注 該当リンクページが削除されているためキャッシュのアドレスとなります。)  ずいぶん、無責任な回答ですね。  おそらくこのやり取りを意識したのでしょう。『週刊ダイヤモンド』は、2018年9月8日号の「まだまだあった不動産投資の罠」特集では、次のように「反省」しています──。  SD元社長の大地則幸氏がダイヤモンド社から出版した書籍にも、「入居率9割」とあり、この記載を信じた読者も多数いたとみられる。しかし、各戸の入居状況など(レントロール)は次第に想定と乖離しはじめ、最終的な入居率は50%未満だったとされる──。  私も専門誌出版社の出身なので、雑誌の経営が大変であることはよく理解しています。ただ、それでも、「実際の入居率が50%未満」だったのに、「入居率9割」と書くようなインチキ本をダイヤモンド社が出版してしまったことは、残念で仕方がありません・・・。 【■■不動産投資に関する良書を探す】  「かぼちゃの馬車」のような不動産投資にだまされないための1つの方法は、投資に踏み切る前に、「良心的な書籍」を読んで気持ちを落ちつけることです。  そのため、「どんな本がいいかなぁ」と考えながら、全国紙の書籍広告欄を毎日のように眺めていたら、「1冊の本」が目に留まりました。  公認会計士・税理士 山田寛英著『不動産投資にだまされるな 「テクニック」から「本質」の時代へ』(中公新書ラクレ、2018年11月10日発行、800円+税)。  さっそく、Amazonで検討すると、次のようなキャッチコピーが書いてありました──。  シェアハウスにサブリース。トラブル頻発の不動産投資で生き抜くのに必要な「本質」とは。業者にも小手先のテクニックにも、もうだまされるな!  サービスやテクノロジーの進化でハードルが下がった不動産投資。しかし公認会計士で税理士の著者は「業者から言われるがまま、安易に手を出す風潮は危うい」と警鐘を鳴らす。  一方、富める者が不動産投資を積極的に学んできたのは事実で、「今こそ本質を知って彼らに追随せよ」と喝破する。  生き延びるための12の鉄則とは。これでもう、あなたは「だまされない」──。   ずい分、力強いキャッチコピーです。これはきっと、必読書なのでしょう。すぐにAmazonで購入して、読み込んでみたら「当たり」でした。 【■■『不動産投資にだまされるな』の充実した内容】  「はじめに」──。   不動産投資「必勝法」だらけの時代に、不動産投資に必要な資質とは。   今こそ不動産投資の「本質」を知れ。  序章「なぜ不動産投資が問題化したのか」──。   爆発的に増えた不動産投資家。  「シェアハウス投資」問題。スルガ銀行の役割とは。  「かぼちゃの馬車」のロジック。   銀行と不動産業者の一致した「思惑」。  「サブリース契約」問題。  「サブリース契約」は解約できるのか。   だから「不動産投資にだまされるな」。  第1章「なぜ不動産投資にだまされるのか」──。   大家の実態を知ることはほぼ「不可能」。   大企業もだまされる。   あくまで「余剰」だから法も税も味方しない。   不動産投資には「格差」がある。   年収が高くなって「当たり前」。   怪しすぎる「利回り」と「入居率」。   すぐに投資の「成果」が分からない。   セミナーは「だまし」のオンパレード。   だましの手口の例「三為業者」。  第2章「不動産投資の天国と地獄」──。   天国1「不動産投資を本業に活かして成功」。   天国2「本業を不動産投資に活かして成功」。   天国3「情報の源流を抑えて成功」。   地獄1「セミナーの雰囲気に流されて失敗」。   地獄2「不動産業者の言いなりになった挙句に失敗」。   地獄3「見立てを誤って失敗」。  第3章「成功大家の真実」──。   「成功大家」は現代の「貴族」。   「成功大家」と「スター大家」は別の存在。   「ローン」は「借金」と言い換えろ。   「サラリーマンは有利」説は本当か。   「相殺でお得」のウソ。    赤字でも続けたほうがいい不動産投資などない。   「ローン」を使わないで済むなら新参者にも勝機アリ。  第4章「絶対に負けられない人のための12の鉄則」──。    1「銀行」に生殺与奪権を握らせるな。    2「美味しい話」にだまされるな。    3「グレーな不動産投資」にだまされるな。     4「物件」はいつでもこう選べ。    5 昔も今もこれからも強い「ヤドカリ戦法」。     6「表面利回り」にだまされるな。    7 とにかく大事なのは「手残り」。     8「広告費」にだまされるな。    9「法人化」にだまされるな。    10「買い替え」にだまされるな。   11「売却」にだまされるな。    12「自己破産」にだまされるな。  第5章「不動産投資の原点回帰が始まる」──。   「ニッチなテクニック」の時代はまもなく終わる。    なぜ自由が丘で二世帯住宅が流行しているのか。    江戸時代でも「資産家」は不動産投資を学んでいた。    必要になるのは強い「胆力」である。    あなたが子孫を繁栄させる「礎」となれ。 【■■著者・山田寛英氏のプロフィル】  山田寛英氏は公認会計士・税理士です。  プレジデント・オンラインに、本書『不動産投資にだまされるな』に関連するコラムを寄稿しています。タイトルは「すべてが自己責任“不動産投資”の恐ろしさ──法も税も味方してはくれない」。 https://president.jp/articles/-/26664  1ページ「空室率が上昇していく可能性は極めて高い」  2ページ「なぜ積水ハウスはだまされたのか」  3ページ「抵当権をあえて設定しておく、という自衛法」  4ページ「平等に利益が生まれるとは限らない」  山田寛英氏のプロフィルも紹介しておきましょう──。  1982年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。アーク監査法人(現・明治アーク監査法人)に入所。不動産会社や証券会社を中心とした会計監査実務を経て、税理士法人・東京シティ税理士事務所にて個人向け相続対策・申告実務に従事。  2015年、相続税・不動産に特化したパイロット会計事務所を設立。不動産を中心とした相続対策・事業承継を専門とする。著書に『不動産屋にだまされるな』(中公新書ラクレ)などがある。 【■■『不動産投資にだまされるな』を読んだ感想】  本書の表帯にはこう書いてあります。  1 サラリーマンが有利。  2 年金代わりにワンルーム。  3 マンション経営で年収アップ。  4 クリック1つでラクラク収益。  5 業者・銀行はあなたの味方。  6 セミナー会場限定の情報。  7「地面師」は別世界の話。  8 サブリース契約で空室リスクなし。  しかし、実際に本書を読むと、著者の山田寛英氏はこの1〜8をすべて否定しています。すなわち、「甘い言葉を信用してはならない」という、山田氏独特の「啓発的ジョーク」なのでしょう。  その上で、「不動産投資とは、“投資という言葉の軽いニュアンスからかけ離れた“事業”であり、弱肉強食の世界である」と強調しています。  私にとっては読み応えのある、充実した一冊でした。 【■■「アマゾンおすすめ商品が厄介」という現実】  不動産投資に興味を持つ人の中には、とりあえず「良質な入門書」を読んで、予備知識を身に付けたいという人も多いと思われます。しかし、実際問題として、「良質な入門書」に巡り会うのは極めて困難です。  入門書を探そうとする場合、アマゾンで売れ筋を調べるという方法が考えられます。  アマゾンの検索ボックスに「不動産投資」と打ち込み、並び替えボックスで「アマゾンおすすめ商品」を選択します。すると、最初のページに27冊もの本が登場し、その合計ページ数は50ページに達しているので、全体では1000冊を超えているようです。不動産投資本はよく売れているのかもしれません。  ◇アマゾンおすすめ商品1冊目  『不動産投資のお金の残し方 裏教科書』   2018年7月28日、ぱる出版、石井彰男著、★4.9(5点満点)、レビュー数38  (注)これは不動産投資をススメル本  ◇アマゾンおすすめ商品2冊目   『不動産投資 最強の教科書――投資家100人に聞いた!』   2018年10月5日、東洋経済新報社、鈴木宏史著、★4.7(レビュー数38ー)  (注)これは不動産投資をススメル本  ◇アマゾンおすすめ商品3冊目  『知りたいことが全部わかる!不動産の教科書』  2018年6月21日、東洋経済新報社、池田浩一著、★4.9(レビュー数58)  (注)これは不動産に詳しくなるための実務書(不動産投資をススメル本ではない)  私が強調しておきたいのは、「アマゾンおすすめ商品」を見ると、「不動産投資を勧めることを目的とした本」が、圧倒的な多数派を占めている事実です。  この厄介な問題を何とか処理しない限り、今後も「不動産投資を勧める本」にだまされる人が絶えることはないと思われます。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。 東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、 『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、 『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。