【特別コラム】隈研吾さんの名前を「物件概要欄」に明記しない奇妙な理由|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年4月10日 08時00分
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 建築家の「隈研吾さん」が、設計あるいはデザイン監修を担当した、「新築分譲マンション」があったとします。そのとき、隈さんに仕事を発注した「マンションデベロッパー」は、新築分譲マンションのカタログや図面集、および物件ウェブサイトの「物件概要欄」に、隈研吾さんあるいは隈研吾建築都市設計事務所の名前を明記してもいいのでしょうか?  一般社会の常識では、「当然ながら、明記するべき」という結論に落ち着くはずです。  隈さんが設計あるいは監修した新築分譲マンションは、発注者であるマンションデベロッパーにとっては「大きな誇り」です。また入居者にとっては「大きな喜び」です。そして街を訪れる人にとっては「大きな楽しみ」です。  街に立つ優れた建築を鑑賞する「手がかり」になるのは、建物名および設計者名です。建物名と設計者名を知り、さらに設計者のいろいろな作品を調べてみることで、文化を鑑賞する力が深まっていくのです。  しかしながら、誠に不可解なことに、不動産業の世界には「奇妙な考え」を抱いている人が存在しているだけではなく、どうも「多数派」を占めているようです。  彼らは意外なことに、特に物件ウェブサイトを中心にして、新築分譲マンションの「物件概要欄」に「施工者(施工会社)の名前を明記するのは許される」が、「デザイン監修者や設計者(設計会社)の名前を明記するのは許されない」と判断しているのです。  本コラム欄に3月6日に掲載した、「メジャーセブンに質問状、設計会社に冷たいのはなぜ?」と題する記事は、このような問題をテーマにしたものです。 https://news.real-net.jp/pickup/93633  この記事は、幸いにも多くの読者に、興味を持って読んでもらうことができました。 【■■スーモとホームズの物件概要欄には「設計会社」という項目が存在しない】  そのため、さらに取材を続けたところ、驚くべき実態が分かってきました。不動産ポータルサイトの2強と目される、リクルート住まいカンパニーの『スーモ(SUUMO)』およびライフル社の『ホームズ(HOME'S)』の物件概要欄には、「設計会社」という項目そのものが存在していないのです(2019年3月時点)。  なぜ、こんな奇妙な結果になってしまったのでしょうか。「メジャーセブンに質問状、設計会社に冷たいのはなぜ?」に続く第2弾として、今回はこの問題を徹底的に追求してみることにしました。  ただし、記事の第2弾は「徹底追求版」という性格上、文字数が1万字を超える極めて長い原稿になりました。しかも、「不動産の表示に関する公正競争規約・別表6」という、硬い法規も登場してくるため、どうしても文章が硬くなってしまいます。  そのため、途中で「パス」したくなる人もいるかもしれません。それを防ぐためは、どうすればいいのでしょうか。アレコレ考えて、記事の後半に「隈研吾さんのこと」と題する、特別なゴールを用意しておきました。  がんばって、何とかゴールにたどり着いてください。そして、隈研吾さんが設計したマンションの概要欄に、隈さんの名前が明記されているかどうかを、自分の眼でシッカリ確かめてください。 【■■記事を読んだメジャーセブンの社員、AさんとBさんからのメール】  ここで、前回の記事を要約しておきましょう。  一 メジャーセブン(MAJOR7)とは、大手不動産7社「住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス(50音順)」が共同で運営する、新築マンションポータルサイトを意味しています。  二 メジャーセブンの物件概要欄には、「施工会社」という欄が存在するのに、なぜか「設計会社(設計事務所)」という欄が存在しません。その結果、「設計会社の姿が消えた世界」が出現しています。  三 念のために、メジャーセブンに参加する7社が個々に運営する「物件公式ウェブサイト」を調べると、設計会社を明記しているタイプ(○)と、明記していないタイプ(×)に分かれています。  (1)明記している会社(○)は、住友不動産、大京、東京建物の3社です。  (2)明記していない会社(×)は、東急不動産、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスの4社です。  それではなぜ、明記している会社(○)と、明記していない会社(×)に分かれているのでしょうか。  実は、その理由を突き止めるための有力な手がかりが、前回の記事が掲載された直後に、読者のAさんとBさんからメールで届きました。  お2人とも、私が『日経産業新聞』に連載しているマンション評価コラム、「目利きが斬る」の取材のためにモデルルームを訪ねた際に、それに対応してくれた方でした。ただし、プライバシー保護の観点から匿名にし、かつ内容を整えるためにメールの文章をリライトしたことをご了解下さい。  「Aさん」からのメール──弊社の資料を調べると、物件概要欄に「設計会社」という項目がありました。そのため「設計会社」の名前を、ちゃんと記載しているはずです・・・。  なおAさんは、メジャーセブンに参加する大手デベロッパーのうち、自社のウェブサイトに「設計会社を明記している会社(○)」に勤務しています。  「Bさん」からのメール──「不動産の表示に関する公正競争規約・別表6」に準じて、物件概要欄の表示システムを組んでいますので、「設計会社」という項目はありません。現状を改善するためには、規約の別表6を改正するように働きかける必要があります・・・。  なおBさんは、メジャーセブンに参加する大手デベロッパーのうち、自社のウェブサイトに「設計会社を明記していない会社(×)」に勤務しています。  2通のメッセージを比較しながら読んだため、私は「奇妙な現象」が発生した理由をようやく理解することができました。Aさん、Bさん。ありがとうございました。  さて、私が理解できた理由を説明するためには、「不動産の表示に関する公正競争規約・別表6」に目を通す必要があります。それでは、読まなければならないと考えるだけで肩が凝ってくる、「法規」の世界へイザ出発です。  【■■別表6にたどり着く方法】  そもそも不動産業者が、新築分譲マンションなどの不動産について広告をする場合には、業界が自主的に制定し、かつ公正取引委員会の認定を受けた、「不動産の表示に関する公正競争規約」に従わなければなりません。  その規約について知るためには、公益社団法人・首都圏不動産公正取引協議会のウェブサイトが参考になります。まず「URLその1」をクリックしてください。  URLその1──https://www.sfkoutori.or.jp  すると、「首都圏不動産公正取引協議会のトップページ」になります。  次にその上段にある「公正競争規約」をクリックしてください(URLその2)。  URLその2──http://www.rftc.jp/koseikyosokiyaku  すると「公正競争規約の紹介ページ」が開きます。  そのうち上の方にある「不動産の表示に関する公正競争規約」(URLその3)をクリックしてください。  URLその3──http://www.rftc.jp/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2019/02/h_kiyaku.pdf  するとPDF形式で表示された書類が出てきます。その書類を下にスクロールして、第4章・第1節・第8条「必要な表示事項」を眺めてください。ここはチラッと眺める程度で結構です。  次に再び「公正競争規約の紹介ページ」(URLその2)に戻ってください。  URLその2──http://www.rftc.jp/koseikyosokiyaku  そのページを下にスクロールして、別表6をクリックしましょう(URLその4)。  URLその4──http://www.rftc.jp/webkanri/kanri/wp-content/uploads/2019/02/beppyou_06.pdf  するとようやく、「別表6・新築分譲マンション(小規模団地を含み、残戸数が1戸のものを除く)」と題する、黄色と白色を塗り分けたPDF形式の書類が出てきます。ここが目的地です。  行ったり来たりで、何だか目が回るような感じでしたね。少し深呼吸しましょう。「ゆっくり息を吸って、ゆっくり息を吐く。スーッ、ハァーッ」。気持ちが落ち着いたら、記事を読み進めてください。 【■■「不動産の表示に関する公正競争規約」別表6の功罪】  さて、新築分譲マンションの広告を制作する場合には、「別表6」に示した1から30までを遵守する必要があるのですが、そのうち8に「施工会社の名称又は商号」と記されています。ここが今回の問題の「震源地」です。  「別表6」の8は広告を大きく、a「パンフレット等」、b「住宅専門雑誌記事中広告、新聞記事下広告、新聞折込チラシ等」、c「その他の新聞・雑誌広告」、d「インターネット広告」の4種類に分類します。  そして、そのうちa、b、dには「施工会社の名称又は商号」を書きなさいという意味です。その一方、「設計会社の名前」については何も指示していません。  その結果、マンションデベロッパー各社は、「設計会社を明記した方がいいのだろうか?」、それとも「明記しない方がいいのだろうか」と迷うことになってしまったのです。  ジャーナリストという立場にある私からすれば、誰かが声をかけ関係者一同が集合して、見解を統一。その上で、公正取引委員会の認定を受けた方が早道だと思うのですが、実際のところ2006年以降は手つかず状態になっているようです。  先ほど紹介した読者の「Bさん」は、そのことを、「現状を改善するためには、規約の別表6を改正するように働きかけをする必要があります」と指摘してくれていたのです。  【■■明記している3社は親切派、明記していない4社は慎重派】  メジャーセブン7社のうち、住友不動産、大京、東京建物など「設計会社を明記している3社(○)」は、「別表6」の8「施工会社の名称又は商号」を次のように解釈していると思われます──。  そもそも、「不動産の表示に関する公正競争規約第8条(必要な表示事項)」の趣旨は、「不動産事業者はユーザーにとって必要なすべての情報を、明瞭に表示しなければならない」と定義することにある。  その趣旨を尊重するのであれば、「別表6」の8「施工会社の名称又は商号」という項目に、自主的に「設計会社(設計事務所)の名称又は商号」という項目も追加しておいた方が、ユーザーにとって「親切」なのではないか・・・。  こういう考え方に、異議を唱える設計会社、施工会社は存在するでしょうか。おそらく、存在しないと思われます。何しろ、「うるさ型のジャーナリスト」という印象を残しているかもしれない私が見ても、必要な情報をきちんと公開しているのですから「立派な合格」です。  その一方では、東急不動産、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスなど「設計会社を明記していない4社(×)」は、「別表6」を次のように解釈していると思われます──。  「別表6」には、「施工会社の名称又は商号」と書いてあるけれど、「設計会社の名称又は商号」は書いていない。よって、「慎重を期す」意味で、「設計会社(設計事務所)の名称又は商号」の明記は控えた方がいい・・・。  このようにしてメジャーセブン7社は、親切派の3社(○)と、慎重派の4社(×)に分かれてしまったのではないでしょうか。 【■■誰がメジャーセブンを運営しているのか】  そうだとすると、大手不動産7社が共同で運営する、ウェブサイト「メジャーセブン」の物件概要欄に、「設計会社(設計事務所)」という欄が存在しないのは、どういう理由によるものでしょうか?  親切派3社(設計会社の名前を明記○)と、慎重派4社(設計会社の名前を明記しない×)が、「多数決」で決めることにして採決した結果、慎重派4社が勝利したのでしょうか?  しかし、そんな興味深い出来事があったのなら、どこかに記録が残っているはずですし、事情通の誰かが連絡してくれたかもしれません。ということで、私は「どうしてかなぁ」と考えながら、メジャーセブン(MAJOR7)のホームページを、隅々まで眺めてみました。  すると、トップページの最下段にある「メジャーセブンについて」という項目に目が留まったので、クリックしてみました。すると、画面の下の方に、「メジャーセブン連絡先」という項目が眼に入りました。   「メジャーセブンについて」    https://www.major7.net/aboutus 「メジャーセブン連絡先」   運営会社:MAJOR7事務局   所在地:〒102-0083 東京都千代田区麹町1-4-4   東京支社メール:Major7@LIFULL.com  メールの宛先に示された「LIFULL」という6文字を見て、初めて「隠れていた構図」を理解することができました。   この記事の前の方で、ライフル社の『ホームズ(HOME'S)』は、設計会社の名前を明記していないシステム(×)になっていると説明しました。すなわち同社は、公正競争規約・別表6では慎重派に属しています。  その慎重派が、ウェブサイト「メジャーセブン」のシステム設計を担当したのですから、設計会社の名前を明記していなかったのです。 【■■奇妙な流れをくい止めなくてもいいのか】  ここまで長々と論じてきたように、インターネットの世界では、リクルートの『スーモ(SUUMO)』およびライフルの『ホームズ(HOME'S)』では、物件概要欄から「設計会社の名前」が消えてしまいました(×)。またメジャーセブンのウェブサイトでも、「設計会社の名前」が消えてしまいました(×)。  さらに、メジャーセブンに参加する大手7社のうち、東急不動産、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスという4社の公式ウェブサイトからも、「設計会社の名前」が消えてしまいました(×)。  それに加えて、リクルートが発行するマンション情報誌『SUUMO新築マンション』をパラパラとめくった限りでは、「物件概要欄」から「設計会社の名前」が消えていました(×)。  「すべてのマンションデベロッパーが本音ベースでは支持していない」と思われるのに加えて、実際問題として「すべての設計会社につらい思いをさせている」この奇妙な現実を、そろそろ改善しなくてもいいのでしょうか? 【■■ゴールにたどり着く前に──「隈研吾さん」のこと】  私はかつて、建築専門誌『日経アーキテクチュア』の記者だったため、建築家の隈研吾さんとは何回も話をする機会がありました。地下鉄「銀座線」の電車に乗り、つり革にぶら下がって「ボーッ」としていたら、座席に座っている人から「こんにちは」と声をかけられたこともあります。声の方向を眺めたら、なんと隈さんが座ってニッコリ笑っていました。  今や、日本建築界のトップを走る隈研吾さんと初めてお会いしたのは、実質的な処女作に相当する「M2」(マツダ系の商品企画会社が発注した、オフィス兼自動車ショールームとして誕生)の完成写真を携えて、隈さんが1991年に編集部を訪ねてきたときのことです。  私が建築ジャーナリストとして、隈さんに対して抱いている印象をまとめてみましょう。  一 普通の質問ではなく、「変わった質問」をした方が、隈さんは喜んで対応してくれる。なお、変わった質問とは、「そんな切り口もあったのか」というような質問です。  二 それに加えて、「隈さんを困らせるような質問」であればあるほど、隈さんは本気になって答えてくれる。  隈さんは発想が極めて豊かな建築家です。それゆえに、「変わった質問」「困らせるような質問」があると、それがいい意味の刺激剤になって、発想がさらに豊かになるのだと思われます。   私が把握している限りでは、その隈さんはこれまで、6件の新築分譲マンションのデザイン監修を手がけています。  1「パークコート神宮前」。東京都渋谷区神宮前に2009年完成。発注者は三井不動産レジデンシャルと東電不動産。  2「パークコート神楽坂」。東京都新宿区赤城元町に2010年完成。発注者は三井不動産レジデンシャル。  3「ブリリアタワー池袋」。東京都豊島区南池袋に2015年完成。発注者は東京建物と首都圏不燃建築公社。  4「パークコート赤坂檜町ザタワー」。東京都港区赤坂に2018年完成。発注者は三井不動産レジデンシャル。  5「グランドメゾン御園座タワー」。愛知県名古屋市中区栄に2018年完成。発注者は積水ハウス。  6「Mastery(マステリー)C棟」。オーストラリア・シドニーに2021年完成予定。発注者は三菱地所レジデンス。  このうち私が最も気に入っているのは、2の「パークコート神楽坂」です。神楽坂の街を訪れたとき、少し足を伸ばして赤城神社にお参りすると、その境内のすぐ隣に「パークコート神楽坂」がなんともほっこりした姿を見せてくれるのです。  【■■ゴールにたどり着いて目にした光景】  さて2013年9月3日に、タワーマンション「ブリリアタワー池袋」が全戸契約完売したタイミングをとらえて、マンションデベロッパーの東京建物と首都圏不燃建築公社が、共同で記者発表の場を設けたことがありました。  建物の特徴は、下部が「豊島区新庁舎」、上部が「ブリリアタワー池袋」という、「区庁舎と一体になった超高層マンション」であることです。  記者発表で配布された「ニュースリリース」には、次のように明記され、いずれも日本を代表する会社(事務所)が並んでいました。   デザイン監修 : 隈研吾建築都市設計事務所   設計・監理 : 日本設計 (構造設計協力/大成建設)   施工 : 大成建設東京支社   ニュースリリースのURL http://pdf.irpocket.com/C8804/qnwX/iHPw/r3qg.pdf  私もその記者発表に出席。せっかくの機会だったので、隈さんを「少し困らせる」ような質問をしました。すると隈さんは、多くの記者が耳を傾けている場であることを考慮して、「スペインの闘牛士が、突っ込んで来る牛の角(つの)から、うまく身をかわす」ような、優雅な答えを返してきました。  仮に、その記者発表のときに、私が「インターネットの世界で、物件概要欄から設計会社の名前が消えかけている事実」に気がついていたとしたら、必ずその問題について質問していたはずです。  そうしたら、隈さんはどのように答えてくれたのでしょうか・・・。  ところで、「ブリリアタワー池袋」は2013年9月の時点で、すでに全戸完売してしまいました。そのため当然のことながら、現時点ではウェブサイト『SUUMO─新築マンション』と『HOME'S─新築マンション』には掲載されていません。  ただし、この記事は「徹底追求版」なので、念には念を入れる必要があります。そのため、『SUUMO─中古マンション』と『HOME'S─中古マンション』でも、検索してみました。  すると『SUUMO─中古マンション』で「ブリリアタワー池袋」がヒットしました(この記事を書いていた2019年3月の時点)。  https://suumo.jp/ms/chuko/tokyo/sc_toshima/nc_91384244/bukkengaiyo/?fmlg=t001  注目の「ブリリアタワー池袋」の物件概要欄には、どのように記されていたのでしょうか。そこには、施工「大成建設」と明記されていました。しかし「設計会社」という項目が存在しないため、隈研吾建築都市設計事務所と日本設計の名前は見当たりませんでした。  日本建築界のトップを走り、東京大学教授という最高のポストに就いている「隈研吾さん」でさえ、こういう扱いなのですね・・・。 【■■隈研吾さんに投げかけてみたい「変わった質問」】  以上のような長いプロセスを経て、私は2019年4月に掲載される予定のこの記事に、隈研吾さんに投げかけてみたい「変わった質問」を明記することにしました。  質問──「隈さんは最近、新築分譲マンションの物件概要欄に、隈研吾あるいは隈研吾建築都市設計事務所という名前が明記されていないことを、悲しいと感じるようになっていませんか?」。  多くの皆さんは、「何の根拠もなくそんな変わった質問をするのは、隈さんに失礼ではないか」とあきれるかもしれません。しかし、ご懸念は無用です。ちゃんとした根拠があります。  隈研吾建築都市設計事務所のウェブサイトに、「タイムライン」と名付けた欄があります。  タイムラインのURL https://kkaa.co.jp/timeline  この「タイムライン」には、隈さんが率いる設計事務所が、これまでに設計したほぼすべての「作品」ごとに、「その所在地(国)、状況(完成済み、進行中、展示会・展示物、インテリア)」などの概要を、現在から過去に遡る形式で一覧表形式にまとめてあります。  ざっと見ただけでも、仕事の範囲が、日本だけではなく世界各国に及んでいる状態が分かります。 【■■「タイムライン」から感じとった隈さんの「悟りの心境」】  さて、ここで、タイムラインに掲載された各作品を、2019年から過去へと遡る形でクリックしてみてください。  2019年には「NIWA」「日本平夢テラス」「デリス横浜ビル」など10作品が掲載されています。そしてその10作品すべてに、プロジェクトチームに参加したスタッフの名前が明記されている事実を、自分の眼で確認してください(この記事を執筆した2019年3月時点)。  例えば、富士山を望む名勝地、日本平の山頂に建つ「日本平夢テラス」の場合には、元所員2名を含むプロジェクトチーム7名の名前が明記されています。 「設計を支えてくれたスタッフに感謝するために、現所員か元所員かを問わず、その名前を明記することにしよう・・・」。  これが、「建築家としての隈さん」が長い時間をかけて到達した、「悟りの心境」なのだと思います。そういう心境で富士山に対峙すると、さぞ晴れ晴れとした気持ちになるのでしょうね。  しかしながら、2018年以前には、隈さんは「悟りの心境」には到達していなかったように思われます。まず、2018年に掲載された、「Camper Paseo de Gracia 」から、「Shipyard 1862」までの41作品をクリックしてみてください。  プロジェクトチームに参加したスタッフの名前が、一部の作品を除いて、明記されていないのが分かりますね。  そしてさらに遡って、2017年から隈さんが設計活動を開始した1988年までの作品ごとに、ざっとチェックしてみて下さい。その期間の作品にもまた、プロジェクトチームに参加したスタッフの名前が、まったくといっていいほど明記されていない事実を確認できたでしょうか(この記事を執筆した2019年3月時点)。  それでは2019年以降の作品に限って、なにゆえに「参加スタッフを明記する」という、特別な変更が加えられたのでしょうか。3つの可能性が考えられます。  ◇第1の可能性──。2018年の某月某日、隈研吾さんは事務所のスタッフから、「タイムラインに自分の名前が載っていないのは悲しい」という声を聞いたのではないか。その声を聞いて、配慮が欠けていたと反省。とりあえず2019年版から、すべてのプロジェクトの記録に、スタッフの名前を明記するように改めたのではないか・・・。  ◇第2の可能性──。2018年の某月某日、隈研吾さんは知人から、「タイムラインにスタッフの名前が載っていない。設計事務所の主宰者としては、スタッフの努力に報いる意味でも名前を出してあげた方がいい」というアドバイスを受けたのではないか。そのアドバイスに感謝して、とりあえず・・・。  ◇第3の可能性──。2018年の某月某日、隈研吾さん自身がタイムラインを眺めていて、スタッフの名前が載っていない事実を把握。「これは至らなかった」と反省して、とりあえず・・・。  私はそんな「推理」をベースにして、この記事に、隈研吾さんに投げかけてみたい「変わった質問」を明記してみました。それによって設計会社の「名称明記問題」に、大きな突破口が開かれことを期待しているのです。  こんな「変わった質問」をしたら、隈さんは困るでしょうか。いや、隈さんは建築界のトップを走る「建築家」であると同時に、味わいのある名著『負ける建築』を初め多数の著書を有する懐の広い「論客」でもあります。必ず、何か、意表を突くような・・・。 【■■おまけ『YAHOO!不動産』と『at home』】  「徹底追求版」なので、ヤフーの『YAHOO!不動産』とアットホームの『at home』についても、調べてみました。  このうち『YAHOO!不動産』では、新築分譲マンションの「物件概要欄」に「設計会社」という項目が存在しません(×)。これは、リクルートの『SUUMO)』およびライフルの『HOME'S』と同様です。  その一方、『at home』では、新築分譲マンションの「物件概要欄」に「設計会社」という項目がある場合と、ない場合に分かれています。 「設計会社」という項目があるのは、マンションデベロッパーが「物件公式ウェブサイト」に設計会社を明記している場合(○)です。また「設計会社」という項目がないのは、マンションデベロッパーの「物件公式ウェブサイト」に設計会社を明記していない場合(×)です。  すなわち『at home』は、仕事の発注者であるマンションデベロッパーの方針に合わせた、柔軟なシステムを用意していたことになります。 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------- 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。