【特別コラム】マンションデベロッパーの実力を「遠景法と近景法」で二重測定|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年5月8日 09時26分
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 不動産関係者であれば誰でも、不動産経済研究所が毎年2月に発表する、「事業主別・分譲マンション供給戸数ランキング」に注目しているはずです。  一方、「oricon ME」社が2月に発表する、「オリコン顧客満足度調査──新築分譲マンション部門ランキング」に注目している人は、余り多くないかもしれません。  その理由は簡単です。オリコンのランキングは始まったばかりで、2019年版がようやく3回目です。すなわち、知名度がまだ浸透していないのです。  ただし、2017年版、2018年版と比べると、2019年版は内容が一気に充実しました。そのため不動産関係者だけではなく、マンションの購入を考えているユーザーにとっても、「必読のランキング」と呼べるような出来栄えになっています。 【■■遠景「企業としての経営力」、近景「分譲マンションの品質」】  2つのランキングを、どのように使い分ければいいのでしょうか。  私なら、不動産経済研究所のランキングを、マンションデベロッパーの実力を「遠景」的に把握するためのツールとして使用します。その一方、オリコンのランキングを、マンションデベロッパーの実力を「近景」的に把握するためのツールとして使用します。  遠景とは「遠くに見える景色」を意味し、近景とは「近くに見える景色」を意味します。  例えば富士山を例にとりましょう。富士山は遠くから見ると、周辺の山を軽々と超える高い位置に、優美な曲線を描いて堂々とそびえています。しかし富士山を近くから見ると、火山性の土壌、ゴロゴロした石や岩、各種の植物、積もった雪などが眼に入ってきます。  すなわち、不動産経済研究所のランキングの上位に位置するマンションデベロッパーであれば、富士山のように企業としての存在感が大きいことを意味。総じて信用が高い会社ということになります。  その一方、オリコンのランキングの上位に位置するマンションデベロッパーであれば、富士山を登るとき土壌や植物を詳しく観察できるように、分譲しているマンションの品質に目が行き届く会社であることを意味しています。  このように遠景(企業としての経営力)と、近景(分譲マンションの品質)を二重に測定することで、初めて「真の実力」を把握することが可能になるのです。 【■■不動産経済研究所の2018年事業主別発売戸数ランキング】  ◇全国発売戸数ランキング(2019年2月発表)  1位 住友不動産7377戸  2位 プレサンスコーポレーション5267戸 ★  3位 野村不動産5224戸   4位 三菱地所レジデンス3614戸   5位 三井不動産レジデンシャル3198戸   6位 あなぶき興産2450戸 ★   7位 日本エスリード2401戸 ★   8位 タカラレーベン1873戸   9位 大和ハウス工業1627戸  10位 新日鉄興和不動産1539戸  これは全国発売戸数ランキングなので、マンションデベロッパーの全国的な影響力を示すことになります。ただし★印を付けた3社は、首都圏での発売戸数はわずかに0戸〜11戸に過ぎないため、首都圏ではまったく存在感がありません。  ◇首都圏発売戸数ランキング  1位 住友不動産6211戸  2位 野村不動産3536戸  3位 三井不動産レジデンシャル2651戸   4位 三菱地所レジデンス2616戸   5位 新日鉄興和不動産1017戸   6位 新日本建設1070戸 ★  7位 名鉄不動産978戸 ★   8位 タカラレーベン796戸 ★   9位 大和ハウス工業785戸  10位 東急不動産720戸 ★  これは首都圏発売戸数ランキングなので、マンションデベロッパーの首都圏における影響力を示すことになります。なお★印を付けた4社は、全国発売戸数ランキングのベスト10には登場していない会社です。  ※「不動産経済研究所・2018年事業主別発売戸数」に関する資料   https://www.fudousankeizai.co.jp/share/mansion/363/z2018.pdf 【■■オリコン顧客満足度調査・新築分譲マンション部門とは何か】  皆さんは、「オリコン顧客満足度調査・新築分譲マンション」の存在を知っていましたか。これは「oriconME社」が、実際の利用者、すなわち「過去12年以内に、新築分譲マンションに入居し、購入物件の選定に関与した人」を対象にして、アンケート調査を行った結果をとりまとめたものです。  アンケートに際しては、「立地、周辺環境、デザイン、住戸の構造・設計、共有施設、アフターフォロー、情報提供、引渡し時の住宅確認、マンションの構造・設計、住戸設備、金額の納得感」、という11の項目について質問。その上で11項目の点数を合計し、その合計点をもとにマンションデベロッパー各社を順位付けして、ランキングを作成しています。  回答者の数は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)が8287人、東海圏(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県)が1071人、近畿圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県)が3043人なので、ずいぶん大がかりです。    調査の対象になった企業数は、首都圏63社、東海37社、近畿48社でした(調査は2018年10月5日〜12日に実施)。 【■■2019年オリコン新築分譲マンション部門ランキング】  ここでは「首都圏・総合ランキング」のみを紹介します。  ◇首都圏・総合ランキング(2019年2月発表)  1位 野村不動産73.79点 ★  2位 東京建物73.68点   3位 住友不動産73.42点 ★  4位 大成有楽不動産73.20点  5位 東急電鉄73.16点  6位 三井不動産レジデンシャル73.04点 ★  7位 三菱地所レジデンス72.94点 ★  8位 伊藤忠都市開発72.31点  9位 東急不動産72.25点 ★ 10位 大和ハウス工業71.67点 ★  これを見ると、1位の野村不動産が73.79点なのに、10位の大和ハウス工業が71.67点なので、その差はわずか2.12点しかありません。「大接戦」であることが分かります。  また★印を付けた6社は、不動産経済研究所の首都圏発売戸数ランキングベスト10に入っていた会社です。すなわちマンションデベロッパーとしての実力、および分譲しているマンションの品質ともに、「特に優れた会社」と判断することが可能です。  以上のように、不動産経済研究所のランキングは、マンションデベロッパーの実力を、「遠景」として全体的に把握するツールとして有用です。またオリコンのランキングは、マンションの出来栄えを、「近景」として身近に把握するツールとして有用です。  そして遠景(企業としての経営力)と、近景(分譲マンションの品質)を重ね合わせることで、初めて「総合的な実力」を把握できることになるのです。  ※「オリコン顧客満足度調査・新築分譲マンション」に関する資料   https://life.oricon.co.jp/information/204 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。