【特別コラム】マンション陣営がホテル陣営に敗北した「京都の都心」を歩く|細野透(建築&住宅ジャーナリスト)
2019年5月15日 08時00分
no image
(画像は「アトラス京都御所西」の完成予想図)  不動産経済研究所が毎年発表する『京都市のマンション市場動向』に、例年とは大きく異なる数字が掲載されたのは2016年のことでした。  ◇2015年(年間実績)  発売戸数───2317戸☆  価格─────5124万円  平均坪単価──246万円  ◇2016年(年間実績)  発売戸数───1384戸★  価格─────5296万円  平均坪単価──250万円  2015年のデータと、2016年のデータを比較してみましょう。発売戸数が、「2015年の2317戸☆」から「2016年の1384戸★」へと、一気に933戸(約40%)も落ち込んだのが分かります。その一方、価格と平均坪単価はほぼ「横ばい」です。  このような大きな変化を、「京都の乱」と名付けることにしましょう。 【■■京都の都心では「分譲マンション建設計画」が激減】  不動産経済研究所の『京都市のマンション市場動向』を見ると、最近の2年間(2017年と2018年)は次のような結果になりました。  ◇2017年(年間実績)  発売戸数───1220戸  価格─────4378万円  平均坪単価──211万円  ◇2018年(年間実績)  発売戸数───1277戸   価格─────3814万円  平均坪単価──214万円  これを、「京都の乱」が発生する以前の、2015年の数字と比較してみましょう。  (1)発売戸数は、「2015年の2317戸」から「2018年の1277戸」へと、1040戸(約45%)の落ち込み。  (2)価格は、「2015年の5124万円」から「2018年の3814万円」へと、1310万円(約26%)の落ち込み。  (3)平均坪単価は、「2015年の246万円」から「2018年の214万円」へと、32万円(約13%)の落ち込み。  このように、発売戸数、価格、平均坪単価ともに大きく落ち込んでいます。 【■■「建設用地の取り合い合戦」で「ホテル陣営」に敗北】  「京都の乱」の原因は、はっきりしています。「建設用地の取り合い合戦」で、「分譲マンション陣営」が「ホテル陣営」に敗北した結果です。これを丁寧に説明すると、次のようになります。  (1)京都を訪れる外人観光客が増加した。  (2)そのため、ホテルの客室稼働率が90%を超え、ゆとりがない状態に陥った。  (3)その結果、ホテル建設計画が急増。ホテルとマンションで、建設用地の取り合いになった。  (4)その影響で、都心の中京区や下京区などでは、路線価が20%も高騰した。  (5)ただし、ホテルの方が利益率が高いため、土地代が高くなっても採算が取れる。  (6)その結果、「用地の取り合い合戦」で、分譲マンション陣営が敗北した。  (7)特に利便性が高い「田の字」地区では、マンション建設計画が激減状態になった。  「田の字」地区とは、東側を河原町通、南側を五条通、西側を堀川通、北側を御池通に囲まれた地域を意味しています。この地域の真ん中を東西に走る四条通、および南北に走る烏丸通を加えると、全体として「田の字」に似ているため、このような呼び名が付きました。  この地域には、商業施設や公共施設が集中し、神社や仏閣などの観光名所にもアクセスしやすい立地です。行政区でいうと中京区と下京区に属しています。  しかし、「用地の取り合い合戦」で、分譲マンション陣営が敗北したため、マンションの建設用地を、都心を離れた右京区・伏見区・山科区などの周辺部に求めざるを得ない状態になりました。  ちなみに今年4月中旬の時点では、都心に近い上京区、中京区、下京区で、リクルート「SUUMO」に広告が掲載されている新築分譲マンションは、わずかに4物件という寂しいものでした。  高額なマンションの供給が減るのは、普通は都市のパワーが衰えた場合に限られます。しかしながら、京都市は都市のパワーが旺盛であるにもかかわらず、高額なマンションの供給が一気に落ち込むという珍しいケースになりました。  なお「京都の乱」という表現は、2016年から2018年にかけて50万部近いベストセラーになった、呉座勇一著『応仁の乱』(中公新書)からの連想です。「応仁の乱」では、室町幕府の有力大名が、東軍と西軍に別れて十数年も戦いました。 【■■「土地との縁(えにし)を絶やさない」等価交換事業】  私は少なくとも年に1回は、京都のマンションを取材することにしています。今年は4月に、旭化成不動産レジデンスが京都市上京区に建設している、新築分譲マンション「アトラス京都御所西」を取材してきました。  マンションの敷地は、「田の字」地区の北端を東西に走る「御池通」から、さらに北側にある「今出川通」に面しています。この今出川通は、京都御所と同志社大学今出川キャンパスの間を、東西に走る幹線道路です。  マンションは地上7階、全35戸(分譲住宅29戸、非分譲住宅6戸)という規模です。また周辺は「沿道型美観形成区域」に指定されています。  さて「建設用地の取り合い合戦」で、「分譲マンション陣営」が「ホテル陣営」に敗北し続けている最中に、都心に近いこの敷地で、なにゆえに「分譲マンション陣営」が勝利することができたのでしょうか。このとき注目したいのが「非分譲住宅6戸」の存在です。  マンションの敷地にはかつて、「テイラー」と「米穀商」が軒を連ねた京町家が建ち、格子戸と虫籠窓が独特の風情を見せていました。旭化成不動産レジデンスは、敷地の所有者に対して次のように提案したそうです。  「当社は、土地の所有者の方が、土地との縁(えにし)を絶やすことがないような、等価交換事業を心がけています」。  これは、どういう意味なのでしょうか。普通の等価交換事業では、所有者が持つ「土地の権利」と、そこに新しく建つ「マンションの一部」を、等価で交換することを目的とします。  これに対して、旭化成不動産レジデンスは、新築分譲マンション「アトラス京都御所西」を設計するに際して、周辺が「沿道型美観形成区域」であることを重視。そのデザインに、かつての「京町家」の意匠を取り入れるように努力しました。  そのため、「テイラー」と「米穀商」が「分譲マンション」に変わったとしても、建物全体を包む意匠は継続されていきます。  これなら土地の所有者も、「アトラス京都御所西」の新住戸で、長く続いてきた土地との縁(えにし)を深く感じながら、生活を続けていくことができるのではないでしょうか。  「アトラス京都御所西」の第1期販売は3月中旬に終了。第2期販売は5月中旬に実施される予定です。 【■■「アトラス京都御所西」の物件概要】   所在地─京都府京都市上京区今出川通室町西入堀出シ町288番(地番) 交通─京都市営地下鉄烏丸線「今出川」駅徒歩3分 用途地域─商業地域、第2種住居地域 地域・地区─沿道型美観形成地区、旧市街地型美観地区 敷地面積─698.10㎡(建築確認面積) 建築面積─538.52㎡(建築確認面積) 延床面積─3265.01㎡(建築確認面積) 建ぺい率─77.15% 容積率─381.83% 構造・規模─鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)、地上7階建 総戸数─35戸(非分譲住戸6戸を含む) 間取り─1LDK~3LDK+N(納戸) 住居専有面積─44.30㎡~82.41㎡ 来客用駐車場─2台(平面式駐車場) 自転車置場─37台 管理会社─日本住宅管理 竣工予定─2020年3月 入居予定─2020年3月 売主─旭化成不動産レジデンス 販売提携(代理)─アーバンライフ住宅販売 設計・監理─IAOプランニング&デザイン 施工─福田組大阪支店 細野 透(ほその・とおる) 建築&住宅ジャ─ナリスト。  建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。  著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。