【不動産ニュース】データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~|ニッセイ基礎研究所
2019年6月16日 10時30分
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1―はじめに-マクロ政策とミクロ政策は必ずしも一致しない 1995年以降20年以上、日本の合計特殊出生率は継続的に1.5を下回り、超低出生率社会が続いている。日本国外から大量移民が発生しない限りは、日本全体では長期にわたる超低出生率が少子化を生み出し、2006年以降、総人口減少を招くに至っている。 日本の人口をマクロでみると、出生率上昇が少子化=子どもの数の減少対策となる(本稿では海外からの移民人口増加策は考えない)。では、地方創生が叫ばれる各地の少子化(子ども数減少)対策、すなわちエリア別のミクロ少子化対策においても、出生率上昇がKGI(重要目標達成指標)またはKPI(重要業績評価指標)だろうか。実はそうではない。同一目標(出生数増加)に対するマクロ(日本全体)の政策とミクロ(各地方)の政策は必ずしも一致しない。本稿は、地方の少子化対策議論で非常に多くみられる「出生率上昇が、エリア少子化対策の最終指標である」に対し、必ずしも(大半のエリアで)そうではないことを示したい。 各エリアが達成したいのは、「自らのエリアで生まれる子ども数の増加」であることは異論がないだろう。では、最終目標のエリア出生数の増減は、何によって決まるのだろうか。エリア出生数は次式で計算される。 A<エリアの母親候補の数>×B<出生率>=エリアで生まれる子どもの数 Aは、出生率の定義から15~49歳の女性である。これは「既婚女性出生率」ではなく、未婚女性も含む全女性出生率である。注目点は、エリア子ども数決定要因は出生率一択ではなく、出生率に加え、エリア女性人口も影響していることである。日本全体の話であれば、移民前提でなければ、出生率上昇政策でよい。しかし、国内の1エリアの話となると政策が異なってくる。 自治体間では、比較的簡単に人口移動が生じる。「エリア間移民」の影響をAに関して考慮する必要があり、エリア少子化を考える際は、女性の流出入は必須の議論となるのである。以下、簡単に例示してみたい。 2016年の47都道府県にあける最低出生率は東京都1.24、最高出生率は沖縄県の1.95であったので、次の2つのパターンを考えてみたい。 α)A2万人確保・B1.24(全国最低出生率)とする政策 β)A1万人確保・B1.95(全国最高出生率)とする政策 子ども数は、α)2万人×1.24=2.48万人、β)1.95万人となり、出生率で0.71という大差でも、出生数ではα)が多くなる。エリア少子化対策としては、この2パターンでは、高出生率維持政策よりも、母数A大量確保政策に軍配が上がる。エリアの子どもの減少には、A母親候補の数とB出生率の2指標が絡んでおり、出生数の増加を目指すならば、AB双方を検証しなければならないことがわかるだろう。 2―2つの決定要因の影響力 次に、ABどちらがエリア子ども数により大きく影響しているか考えたい。AB2つの要因増減に直接的に作用する要素を考えてみる。 A エリア母親候補数 -エリアに母親候補女性が住みたいかどうか B 出生率 -婚姻、妊娠出産、育児等に関する諸要因 Aは、新幹線等交通利便性向上、男女高学歴化(4年制大学進学率5割)、奨学/学生ローンアクセス簡易化、学校法人間学生争奪戦、エリア特性依存度の低い第3次産業の発展、IT化による情報収集力向上などから、若い男女の越境が年々容易になってきている。さらにBは、非常に繊細な多くの変数が絡んでくるため、政策操作における配慮が必要な項目が多岐にわたり容易ではない一方、Aは1日で大変動も可能である。東日本大震災以降、福島からAの流出が生じた結果、その子ども将来人口推計は2015年の類似子ども人口エリア7県の中で、30年後減少率が最も高くなる見通しである。 2016年の出生率を比較すると、1位沖縄、5位鹿児島、6位熊本、12位福島、16位岡山、17位滋賀、24位三重と、福島は最低位ではない。つまり、出生率比較だけでは福島の子ども将来人口が最低位となる未来は全く見えてこない。これが出生率比較政策のもたらす落とし穴である。出生率高低のみでエリア子ども人口の未来は語れず、更に出生率高低だけで安心することで、未来の出生数の大きな減少を招く恐れさえもある。 出生率1位独走の沖縄県(2016年1.96)と、出生率最下位独走の東京都(2016年1.24)における、30年後の子ども人口の推移の推計値を比較してみることとする。 出生率1位続行の沖縄よりも、出生率最下位続行の東京の方が、中長期的にも子ども人口減少割合が低い。これは東京都に全国から20代を中心とする若い男女、特に女性が大量に流入することから発生するAの増加が奏功しているためである。東京が意図しているかは別として、徹底した母親候補増加エリアとしての東京の姿が、東京の子ども人口を守り続け、エリアの人口繁栄を長期にわたり保証している。大都市圏への若い男女の流出を「労働人口移動」としてだけではなく、未来の母親人口移動=「地方の未来出生数の喪失」であることを、特に地方は認知したい。 3―女性逃避エリアに子ども人口の未来なし そのエリアをふるさととする子ども人口は前出の通り、 A<エリアの母親候補の数>×B<出生率>=エリアで生まれる子どもの数 で計算される。この式には男性は含まれない。「男性がいなければ妊娠しない」という議論は間違いないが、筆者のレポート、「初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」」(上)(下)で示したように、日本の男女の未婚割合には生涯を通して大きな格差があり、50歳時点で女性の約7人に1人が婚歴がないのに対して、男性は約4人に1人も婚歴がない。この差は、再婚男性が初婚女性を何度も獲得する「タイムラグ式一夫多妻制化」が背景にある。つまり、単に親候補となる年齢層の男女同数をエリア誘致すればよい、ましてや、男性誘致産業政策を行えば人口問題は解決、という話ではない。男性は人口再生産の主役にはなりえず、男性誘致政策が一時の打ち上げ花火的な人口増加と税収アップをエリアにもたらしたとしても、未婚化の著しい男性人口の増加は、かえって孤独死・介護問題といった近年顕在化している現象をエリアにて加速しかねない。結局、どれだけ若い女性を誘致できるかどうかが、エリア出生数の未来を決めるのである。 4―おわりに 母親候補人口流出の状況下で、他エリアと出生率高低だけを比較することでは、エリア人口問題は解決しない。地方政策において出生率上昇を少子化対策の最終指標としているのであれば、早急に改める必要がある。出生率指標政策で問題がないのは、エリア間移動による人口流出を考えなくても良いエリアで有効な議論である。 これは国際問題で考えればわかりやすい。ある国Xから大量に女性流出が他国へ生じている中で、「X国は出生率が非常に高く、女性に優しい、子育てしたい国」との解釈は難しい。その国の方針を受け入れられる女性だけが残り、フル回転で出産していることになる。この状況でその国の人口の未来が明るいと感じる人はいないだろう。 全国からの女性を集める東京都の子ども人口は、この20年程度増加の一途であり、また、将来的にも2045年/2015年人口が100%超との人口増加の推計である。「沈まぬ東京人口」を支えているのは、他でもない全国各地から流入を続ける地方で生まれ育った若い女性たちなのである。 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61736?site=nli&utm_source=RHL&utm_medium=email