【不動産ニュース】「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2019年)|ニッセイ基礎研究所
2019年6月30日 09時00分
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■要旨 仙台のオフィス空室率は、2013年以降、新規供給が限定的であったことを反映し、低下傾向で推移している。こうした需給の逼迫を反映し、伸び悩んでいた成約賃料も上昇している。本稿では、仙台のオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料予測を行う。 ■目次 1. はじめに 2. 仙台オフィス市場の現況   2-1. 空室率および賃料の動向   2-2. オフィス市場の需給動向   2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向 3. TOPICS:開業率からみるサードプレイスオフィス市場の拡大可能性   3-1. 開業率の現況   3-2. 仙台市の開業率が高水準な理由   3-3. 仙台市の開業支援策   3-4. 仙台におけるサードプレイスオフィス市場の拡大可能性 4. 仙台オフィス市場の見通し   4-1. 生産年齢人口の見通し   4-2. オフィスビルの新規供給見通し   4-3. 賃料見通し 1. はじめに 仙台のオフィス空室率は、2013年以降、新規供給が限定的であったことを反映し、低下傾向で推移している。こうした需給の逼迫を反映し、伸び悩んでいた成約賃料も上昇している。本稿では、仙台のオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料予測を行う。 2. 仙台オフィス市場の現況 2-1. 空室率および賃料の動向 仙台のオフィス空室率は、全国主要都市と同様に低下傾向で推移している。三幸エステートによると、仙台市の空室率(2018年12月時点)は5.7%となり、2017年末の7.2%から大幅に低下した(図表1)。仙台では、2013年以降、オフィスの新規供給量は、年間3,000坪を上回ることはなく、低水準に留まっている。一方、IT関連企業やコールセンターを中心とした新規出店や面積拡張、立地改善を目的とした拠点集約、等を背景にオフィス需要は旺盛で、まとまった空室は減少している。 仙台市の空室率を規模1別にみると、2016年以降、規模が大きいビルと中型未満のビルの間に、格差が生じてきている。2018年12月時点の空室率は、「大規模ビル」が4.3%、「大型ビル」が5.4%であるのに対して、「中型ビル」が8.5%、「小型ビル」が8.6%と高水準であった。特に、移転集約等を受け皿となる高スペックな大規模ビルの空室は少ない模様である(図表2)。 仙台市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇基調で推移している。2018年下期の成約賃料の上昇率は前期比+4.6%、前年同期比+5.9%となった。ただし、大阪市や名古屋市、札幌市ではファンドバブル期(2006年~2008年頃)のピークを上回ったのに対し、仙台市はファンドバブル期のピーク水準の88%に留まっている(図表3)。 2018年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、仙台市では、空室率は大きく改善している一方で、賃料上昇率は下位に留まった。(図表4)。 賃料と空室率の関係を表した仙台市の賃料サイクル2は、2010年上期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が長期にわたり続いている。ただし、過去のサイクルと比較すると、空室率が大きく低下しているのにもかかわらず、賃料の上昇幅は小幅なものとなっている(図表5)。 1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。 2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。 2-2. オフィス市場の需給動向 三鬼商事によると、仙台ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、低水準の新規供給が続いた影響や、築古ビルの取り壊し等が進んだことで、2012年末の46.9万坪から2018年末の46.0万坪へと6年間で0.9万坪減少した。一方、テナントによる賃貸面積は、2012年末の40.5万坪から2018年末の44.0万坪へと6年間で3.5万坪増加した(図表6)。 過去6年間の月次の増減を確認すると、賃貸可能面積が増加したのは、2017年に「野村不動産仙台青葉通ビル」が竣工した時期のみである(図表7)。一方、賃貸面積は、着実な増加を示しており、仙台のオフィス需要の底堅さが窺える。 この結果、仙台ビジネス地区の空室面積は2010年末の9.0万坪をピークにして減少し、2018年末には2.0万坪(前年比▲0.9万坪)となり、ファンドバブル期のボトムである3.5万坪(2007年末)を大幅に下回った。 2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向 2018年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「駅前地区(35.3%)」で、次いで「一番町周辺地区(31.9%)」、「駅東地区(14.2%)」、「県庁・市役所周辺地区(13.2%)」の順となっている(図表8)。 2018年は、築古ビルの滅失等によって「一番町周辺地区」(前年比▲0.4万坪)や「駅東地区」(▲0.1万坪)で、賃貸可能面積が減少した(図表9)。 一方、賃貸面積は、「一番町周辺地区」を除く全ての地区で増加した。この結果、空室面積は、全ての地区で減少し、計▲0.9万坪減少した。 エリア別の空室率(2018年12月末)を確認すると、「駅前地区3.10%(前年比▲1.79%)」や「一番町周辺地区3.19%(▲1.69%)」、「駅東地区6.12%(▲2.06%)」の空室率が大幅に改善しているのに対し、「県庁・市役所周辺地区7.34%(▲0.09%)」や「周辺オフィス地区8.11%(前年比▲0.51%)」の空室率の改善は限定的であった(図表10左図)。 募集賃料は、空室率が大きく低下した「駅前地区」、「一番町周辺地区」、「駅東地区」では上昇基調で推移したのに対し、空室率の低下が小幅であった「県庁・市役所周辺地区」と「周辺オフィス地区」は横ばい圏で推移した。募集賃料の動きについてはエリア間で格差もみてとれる(図表10右図)。 3. TOPICS:開業率からみるサードプレイスオフィス市場の拡大可能性 東京都心部では、コワーキングスペースをはじめとするサードプレイスオフィス3が増加しており、オフィス市場に与える影響が注目されている。 サードプレイスオフィスの利用企業は、働く場所に関して多様な選択肢を用意し、優秀な人材の確保を意図した大企業と、初期投資コストを抑えたいスタートアップ企業が多くを占める。 東京以外の地方都市におけるサードプレイスオフィス市場の成長性を考察するのにあたり、各都市の起業および事務所開設の状況を把握することは重要と思われる。 そこで、本章では、総務省統計局「経済センサス」をもとに算出した「開業率4」の状況を概観し、仙台におけるサードプレイスオフィス市場の今後の可能性について考えたい。 3 主に事業者がサービスを提供するオフィススペース。レンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなど。 4 ある特定の期間において、「新規に開設された事業所数(年平均)」を「期首において既に存在していた事業所数」で除した値。 3-1. 開業率の現況 都道府県別に開業率をみると、宮城県の開業率(2014年から2016年の年平均値)は6.3%と、沖縄県(沖縄県)5に次いで2番目に高い(図表11)。 宮城県の中心都市である仙台市の開業率は7.0%となり、全国主要都市の中で福岡市(7.4%)に次いで2番目に高い(図表12)。過去を遡っても、2012年から2014年の開業率(年平均)は9.9%(福岡市に次いで第2位)、2009年から2012年の開業率は3.1%(第1位)と、常に上位に位置している。 仙台市の業種別開業率をみると、「情報通信業」の開業率が最も高く(11.7%)、次いで「医療・福祉」(11.6%)、「教育・学習支援業」(11.3%)が高くなっている(図表13)。 5 沖縄県の開業率が高水準である理由について、中小企業庁「中小企業白書(2014年版)」では、「低い所得水準や高い失業率の一方で、所得の増加と社会的貢献を目的とした強い達成意識を背景に、相互扶助の精神や共同体意識が残る沖縄社会は、相対的に親族・知人等に依存した自営業の選択を容認する環境にある」と指摘している。 3-2. 仙台市の開業率が高水準な理由 仙台市の開業率が他の主要都市と比べて高水準である理由の1つとして、東日本大震災の影響が挙げられる。福嶋(2018)6では、「震災で壊滅的な被害を受け倒産に陥った企業が再建したことで起業数が多かった」と指摘されている。また、日本政策金融公庫総合研究所が実施した調査7では、「震災が起業のきっかけとなった企業が一定程度存在し、震災で職を失った人々の雇用の受け皿となった」と指摘している。 仙台市で起業した企業を対象とした調査8では、「起業の地を仙台とした理由」として、「起業支援に関する情報や施設が充実している」や「生活環境が充実している」との回答が一定程度を占めた。同調査では、「起業環境や生活環境の整備により、仙台に起業家を引き付ける余地がある」と指摘している。仙台市は起業家支援に力をいれていることも、開業率を押し上げる要因となっていると考えられる。 6 福嶋 路 「仙台は起業の街になりうるか? 第2回 宮城県は新規開業率で日本で2番目」東北大学ポケットガイドテクルペ 2018年1月23日 7 深沼 光、藤田 一郎「東日本大震災が開業行動に与えた影響− 震災をきっかけとした開業を中心に」日本政策金融公庫論集2014年2月 8 福嶋 路 「仙台市における震災後の起業:仙台市産業振興事業団アシ☆スタ支援企業へのアンケート調査」TOHOKU MANAGEMENT & ACCOUNTING RESEARCH GROUP Discussion Paper No. 131 2017 年 4 月 3-3. 仙台市の開業支援策 仙台市は、2014年度から2019年度までの成長戦略「仙台経済成長デザイン-質的拡大による新たな成長」(2014年2月)において、「2017年までに新規開業率日本一」という数値目標をかかげ、日本一起業しやすいまちを目指している。 具体的な取組事例として、「仙台市産業振興事業財団」による起業支援が挙げられる。同財団は、起業支援組織「アシ☆スタ」を2014年1月に設立し、起業や開業を考える市民向けの相談窓口の設置や、ビジネスプランコンテストの開催等を行い、仙台市の企業活動をサポートしている。仙台市産業振興事業団が支援した開業件数は年々増加しており、2016年度には100件を超えた(図表14)。 また、仙台市は2014年から「国家戦略特区」に指定されている。「女性活躍・社会起業のための改革拠点」として、現在、「社会起業」「女性活躍」「近未来技術実証」「医療」「公共空間利活用」に関する規制改革に取り組み、起業しやすい環境を目指している。 3-4. 仙台におけるサードプレイスオフィス市場の拡大可能性 仙台市は、2023年までの経済成長戦略「仙台市経済戦略2023~豊かさを実感できる仙台・東北を目指して~」を2019年3月に公表した。同戦略では、重点プロジェクトとして起業支援が挙げられており、引き続き起業サポートに力を入れていく方向性を示している。 こうした起業支援策に後押しされ、今後も仙台市で起業・事務所開設を行う企業が増えると考えられる。このようなスタートアップ企業の受け皿として、サードプレイスオフィスは有望と考えられる。 実際に、レンタルオフィス大手のリージャスが、仙台駅直結の高層ビル「仙台マークワン」等に5拠点を展開しているほか、2018年6月に一番町周辺地区の「芭蕉の辻AGOビル」に、シェアオフィス・コワーキングスペース「enspace」が開設されるなど、サードプレイスオフィス開設の動きも始まっている。 東京都心部と同様に、オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の事業展開を注視したい。 4. 仙台オフィス市場の見通し 4-1. 生産年齢人口の見通し 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によると、仙台市の生産年齢人口は、減少傾向で推移する見通しである。2025年の生産年齢人口は2015年比▲7.7%減少すると予想される(図表15)。2025年までの生産年齢人口の見通しを他の地方主要都市と比較すると、仙台市は、減少率が最も高い(図表16)。 ただし、住民基本台帳人口移動報告によると、仙台市の転入超過数は9年連続でプラスとなっている。2018年の転入超過数は+2,349人となり、2年連続で転入超過数が拡大している。(図表17)。 以上の状況を鑑みると、今後5年間では仙台市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さそうだが、長期的には他の主要都市と比較してオフィス需要はさほど強くないといえよう。 4-2. 賃オフィスビルの新規供給見通し 2018年の新規供給面積は1,100坪となり、「野村不動産青葉通りビル」が竣工した2017年の半分以下の水準に留まった(図表18)。 仙台では、2013年以降、オフィスの新規供給量は、年間3,000坪を上回ることはなく、低水準の供給が続いている。総ストックに占める過去5年間の新規供給面積は1.1%と、全国主要都市の中で、最も低い水準にある(図表19)。 2019年は大規模ビルの竣工がないものの、2020年以降は、「(仮)仙台花京院プロジェクト」や「新仙台ビルディング建替計画」、「(仮)仙台駅東口再開発ビル」等の竣工が予定されており、まとまった新規供給が再開される見通しである。 4-3. 賃料見通し 前述の新規供給見通しや経済予測9、生産年齢人口の見通しを前提に、2023年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表20)。 仙台の空室率は、2019年に大規模ビルの竣工がないことから、暫くの間、低い水準を維持すると見込まれる。ただし、2020年以降、大規模ビルの新規供給が予定されるため、空室率は緩やかに上昇すると見込む。 仙台のオフィス賃料は、逼迫した需給状況を反映し、当面の間、上昇傾向が継続すると見込む。2018年の賃料を100とした場合、2019年の賃料は108、2020年は114となる見通しだ。2021年以降は、東京五輪開催後の経済の落ち込みや空室率の上昇、等の影響を受けて、横ばい圏で推移すると予想する。 人口動態からみた仙台市のオフィス需要はさほど強いとはいえない。一方で、仙台市では、行政の積極的な起業支援の後押しもあり、企業の起業・新規開業が増加基調にある。2005年にハリーケーン・カトリーナで甚大な被害を受けたニューオリンズは、災害復興が原動力となり起業が増え、やがて「起業家のまち」と呼ばれるようになった。仙台市も順調に起業・新規開業が増え続け、「起業家のまち」に発展することができれば、スタートアップ企業等によるオフィス需要は高まるだろう。仙台オフィス市場を見通す上で、行政の起業支援や新規開業率の動向を注視していきたい。 9 経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2018~2028年度)」ニッセイ基礎研究所などを基に設定。 (ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61773?site=nli